月の迷宮 ダイジェスト版


「アリシア?」
 わかる、これは、たぶん夢。
 違う場所から客観的に見ているわたしの呟きが聞こえる。
 目の前にいるのは、母さん、リニス、アルフ、そしてわたし――フェイト。
「姉さん」
 と、わたしがわたしに、やさしい笑顔で話し掛けてくる。
 以前夜天の魔道書に見せられた幻と一緒。
 日の光まぶしい庭園。
 笑顔の姉妹。
 ――ここは、わたしと、たぶんプレシア母さんが望んだ世界。

    ◇

「やっぱり、夢……」
 真夜中に、不意に目を覚ましたわたしは、無意識にそう呟く。
 でも、いつもと違うなにかを感じる。
 なので、バルディッシュを掴み、バリアジャケットを身にまとい、ひとり夜の街へと――
「なんだか、怖いな」
 夜の街には人通りはほとんどなく、街灯だけが煌々と輝いていた。
 月が雲に隠れているからか、街灯の灯りと灯りの間の闇がひときわ恐ろしく見える。
 そして――
「いた……」
 マンションから五分ほど歩いたところにある児童公園の真ん中に、不自然な人影を見つけた。
 不審な――ではない。不自然な人影。
 直感的にではあるが、そこにいるはずのない――いてはいけない人影。
 ごくりと、自分がつばを飲み込む音が聞こえる。
 気配は殺したまま、神経を研ぎ澄ませ、そして目を凝らす。
 ――と、その時。
「雲が……」
 雲が晴れ、満月が顔を出した。
 その月明かりに照らされた髪の色は……金色。
 後ろを向いているため、顔まではわからないが、その手には――
「バルディッシュ?」
 そう、その人影の右手には、バルディッシュが握られていた。
 ありえない。
 なにもかもが、ありえない。
「アリシア……姉さん」
 目の前の現実から逃げ出しそうになる両足を大地に押しとどめ、人影に向かって声を絞り出す。
 そして――
わたしの声に反応し、振り向いたその顔は――
 悲しい笑みを浮かべていた。
「姉さん……」
 刹那、アリシアの背後に闇が生まれた。
 その闇は見る見るうちに大きくなり、やがて、アリシアを取り込み始める。
「姉さんっ!」
「フェイト! 離れろ!」
 突然聞こえた声に振り向くと、わたしの後ろに黒い疾風。
「クロノ?」
 ミッドチルダの執務官で、義兄でもあるクロノ・ハラオウンが、わたしの横を通り過ぎ、アリシアとの間合いを詰める。
 そして、呪文を詠唱し――
「ブレイズカノン!」
 ミドルレンジで魔力砲を放つが、闇の塊が発したのだろうか、高周波のような声にかき消され、クロノの魔力が霧散する。
「クロノ、なんでここに?」
「話は後だ! 今は……」
 と、S2Uをアリシアに向ける。
「クロノ、なにを……!」
「大丈夫だ、俺を信じろ!」
 強い意思を含んだクロノの声に、わたしは一瞬躊躇してしまう。
 その間に――
「バインド!」
 クロノが捕縛の魔法をアリシアに放つが――
「……はじかれた?」
 音もなく霧散した自分の魔法を見て、クロノが驚愕の声をあげる。
 と、視線を感じた。
 見やると、アリシアがわたしを見つめていた――
 そして――
「タスけテ……、フぇいト……」
 そう、言った。
 確かに、聞こえた。
 夜天の魔道書の世界で、そして、さっきの夢で聞いた、姉さんの声。
 姉さんが、わたしを見つめて、微笑む。
 そして、その姉さんを、黒い霧が包み込み――
「姉さん……、いやだ……姉さんを連れて行かないで!」
 だが、わたしが姉さんの下までたどり着いたときには、すでに何もかもが掻き消えていた。

    ◇

「結論から言うと、あれはアリシア・テスタロッサじゃない」
「え?」
「イデアシードと呼ばれるロストロギアが、アリシアの姿かたちを真似ているだけだ」
「イデアシード……、聞いたことない……」
「だろうな。俺もつい最近まで知らなかった。……これを見てくれ」
 と、モニターにグラフが表示された。
 そのグラフは、アースラ級の艦船の跳躍や、ジュエルシードのようなロストロギアが発動した時に観測される、時空の振動を記録したものだ。
「今から二十四時間前に、レベル九の次元振動を記録した」
 そう、クロノの言う通り、二十四時間前の数値が明らかに常軌を逸していた。
「レベル九の次元振動。つまりは、多元宇宙からの干渉。その多元宇宙から干渉してきた物体。それがイデアシードだ。イデアシードに関しては、次元振動と同時に流れ込んできたデータファイルの断片の解析結果からしかわからないんだが、どうやら人間の記憶を取り込む性質があるらしい」
「記憶を……、まさか!」
「その『まさか』の可能性があるんだ」
 と、モニターには違うグラフが現れた。
「これは……」
 そのグラフの日付は、今から二年前。
 その中で、わずか一瞬だけ、レベル九の次元振動を記録している個所がある。
これは、母さんの……時の庭園が虚数空間に落ちたとき。
「あの時、虚数空間との接触で次元振動が起こり、そして多元世界に干渉してしまった結果――」
「イデアシードとも接触した?」
「ついさっきまでは、その可能性があるというだけだった。だが、さっき交戦した闇と、二年前の次元振動で観測されたエネルギーの反応が一致しているという調査結果が出た。そして今日現れたその闇は、アリシアの姿をとっていた。……確定だ」
 確定――それは、つまり、二年前にイデアシードは……。
 と――
 突如、エマージェンシーコールが鳴り響いた。
「なんだ!」
「なのはちゃんから緊急通信! そちらに回線回します!」
『こちら高町なのは!』
『と八神はやて!』
 エイミィの声とほぼ同時に、ブリーフィングルームになのはとはやての声が響く。
『現在フェイトちゃんにそっくりの女の子と交戦中!』
「いくぞフェイト! 今度こそイデアシードを捕獲する!」
「はい!」
 なのはたちには現状維持との指示を出して、クロノとわたしはブリーフィングルームを飛び出した。
 目指すは、昨日わたしがアリシアと出会ったあの公園――
 待っててなのは、はやて、それにアリシア姉さん。わたしが……助けてあげるから!

    ◇

「なのは! はやて!」
「フェイトちゃん! この子ってばもしかして!」
 公園に着くなり、なのはが私に聞いてくる。
 うすうす気づいているのだろう。
 わたしに良く似たこの子が誰なのか。
『クロノ! イデアシードの詳細がわかった!』
 ナイスタイミングと言うべきか、ユーノから通信が入った。
 ユーノ曰く――
 イデアシードとは、人間の記憶――想いを奪い、それを超純エネルギーに変換するロストロギアで。
 それはジュエルシードが生み出すエネルギーに勝るとも劣らない力を生み出す。
 そして、他次元のミッドチルダで、そのエネルギーを使って迫り来る災厄を食い止めようとした人物がいた。
『その人物の名は、クロノ・ハーヴェイ。……クロノ、お前の同一存在だ』
「俺の……?」
『だから、お前なら感じられるはずだ。イデアシードの……コアの存在を』
「コア?」
『イデアシードが人の形を成したという記録は無かった。だからこれはあくまで僕の推測なんだけど、魔術師にリンカーコアがあるように、イデアシードが変異したモノにも、コアが存在するはずだ』
「言うなれば、イデアコアやな!」
「イデアコアだかなんだか知らんが、いきなりそんなモノを感じろと言われてもな……。イデアシードか……、全く、厄介なものをよこしやがって。うらむぞ異世界の俺」
 ぶつぶつ呟きながらも、クロノの気配が消える。
「……なるほど。空中庭園崩壊時の次元震で紛れ込んできたイデアシードは、一つじゃなかったらしい……、……ダイヤモンドダスト!」
 と、クロノがデュランダルを発動させ、虚空に氷撃を放つが――
「……やはり効かないか」
 その氷は一瞬にして水蒸気と化し、その霧の中から――
「……うそだ」
 驚きと悲しみに締め付けられ、ちぎれそうになる喉から、その三文字だけを紡ぎだす。
 霧の中に浮かんでいたのは、プレシア母さんだったのだ――

    ◇

「母さん……」
 アリシアと母さんを見据える。
「フェイト。右胸だ。心臓と正反対の位置にコアがある」
「了解」
 クロノの声に短く答え、一歩前に出る。
 そのわたしの動きに反応したのは……、母さん。
 母さんの体が黒い霧に包まれ、そしてそのまま一直線にわたしに向かってくる。
「フェイトちゃん!」
「だいじょぶ」
 なのはに笑顔で答え、母さんに向き直る。
 徐々にスピードを増し、わたしへと突っ込んでくる母さん。
 その顔には――悲しみの表情。
 瞳から零れ落ちるは、漆黒の涙――
「あ……あああああああっ!」
 絶叫にも似た叫びを上げ、バルディッシュを突き出す。
 母さんの記憶には無い、管理局での修練で身に付けた、バルディッシュを用いたカウンター。
 魔法は、使っていない。
 刹那のタイミングで、わたしの闘気と全体重を乗せた魂の一撃が、母さんの右胸を貫く。
「これは……!」
 霧状になった母さんの胸のあたりから、種のようなものが見える。
「だめだフェイト、素手で触るな! なにがおこるかわからん!」
「リイン、蒐集や!」
「はい、マイスターはやて」
 コアをはやてが蒼天の魔道書に蒐集し、残ったのは、母さんの形をした……
「母さんの、記憶?」
 そう、そこに残ったのは、イデアシードの呪縛から解放され、あるべき場所へ還ろうとしている、母さんの記憶。
「母さん」
 消え行くそれに駆け寄り、抱きしめようと差し出した手が、無情にも突き抜ける。
 もう、触ることはかなわない。いや、もともと触れることが出来る存在だったのかどうかさえわからないのだけれど――
 だが、その消え行く母さんが、わたしを見た。
「フェイト……」
「かあ……さん?」
「フェイト……、ごめんね……、ありがとう……。アリシアを……たす……け……」
 いつの記憶なのかはわからない。
 わたしを作り出した直後の、まだわたしをアリシアの生まれ変わりだと思って愛していたころの母さんの記憶なのかもしれない。
 でも、わたしには――
 アリシアを見てアリシアと呼び、わたしを見てフェイトと呼んでくれたその母さんは――
 狂気から解き放たれ、優しさをとり戻した母さんのように思えた。
「……母さんに、頼まれちゃった」
 涙が、止まらない。
 でも、涙でにじむ目でしっかりとアリシアを見据える。
 いまなら、わかる。アリシアの瞳の奥の悲しみが。
「姉さん……」
 かわいそうなアリシア。
 記憶を奪われ、イデアシードに姿形を真似され。
 悔しいよね、悲しいよね。
「いま、楽にしてあげる」
 もう、迷わない。
「わたしは、フェイト・テスタロッサ。アリシア・テスタロッサの妹にして漆黒の魔道師」
 バルディッシュアサルトの切っ先をアリシアに向ける。
「いざ……参る!」

    ◇

「だめだフェイト、魔法は通じない上に恐らくさっきのカウンターもバレている。迂闊に踏み込むな」
 アリシアに突貫しようとしていたわたしを、クロノが踏みとどめる。
「うちらが砲撃で隙を作る。その隙にかましたって。……よっしゃ、みんな行くで!」
 と、そのはやての声とともに全員が散開する。
 わたしがアリシアの正面に立ち、バルディッシュアサルトを構え――
 なのはとクロノも、それぞれアリシアの右と左に立ち、デバイスを構える。
 はやてもアリシアの死角に移動し、シュベルトクロイツを構える。
 即席ながら、それなりにベストなフォーメーション。
 そして、タイミングを合わせ、三人同時に砲撃魔法を浴びせる。
 陽動なので威力は問題ではない。連射速度と、派手な煙幕があればいい。
 だが――
「全く効いていないな……」
 クロノの呟きどおり、微動だにしないアリシアには、一分の隙すら出来ない。
「イデアシード……、記憶を奪い、純エネルギーに変換……」
 と、はやてが一人でなにやら考え込んでいた。
「リイン」
「はい、たしかに、蒐集したイデアシードからはわずかながら検知できますが」
「あるんならええ」
「でもそれは危険すぎます」
「ええから」
「マイスター!」
「ええから」
「……わかりました。こうなったはやてちゃんはもう梃子でも動きませんからね」
 しょうがないなぁといった様子でリインフォースUが蒼天の魔道書を開く。
 開いたページは……さっき蒐集したイデアシード!
「はやて!」
「蒐集したイデアシードには、わずかながら記憶が残っとる。それを……使えば……」
「ばかな! 危険すぎる。はやてまでイデアシードに記憶を奪われたら!」
「だいじょぶやてフェイト。うち強いから」
「あ……、う……」
 何の根拠もないのにうっかり納得してしまうような、はやての瞳にはそんな説得力があった。
「いくで、リイン」
「はい、開放します」
 開かれたページから種子のようなものが現れ、それがはやての体内に入っていく。
 感じるのは、圧倒的な負の気配と、それを端から取り込んでゆくはやての正の魔力。
 すべてが終わるまで、それほど時間はかからなかった。
「おまたせ」
 そして、現れたのは――
 いつもどおりのはやての声。
 姿かたちも、変わっていない。だけど……、ひとつだけ、違うところがある。
 ぴし。
「……ひっ」
 はやては、鞭を持っていた。
 その鞭が地面を叩くときに生じる鋭い音が、わたしのトラウマをダイレクトに刺激する。
 あれは……、プレシア母さんがわたしを折檻するときに使っていた……。
「いくよ、フェイトちゃん」
 鞭を持っているだけなのに、いつもより妖艶な雰囲気に見えるのは、プレシア母さんの魔力の成せる業なのだろうか。
「……カア、サン」
「フェイトちゃん、あの子の攻撃はうちが全部無効化したる。せやから……」
「わかった」
 いつか、魔導師として、プレシア母さんと肩を並べて戦う。
 それはかなわぬ夢だったけれど、今、少しだけかなったような、そんな気がする。
「ふたまた!」
 鞭の先端がふたまたに分かれ、それぞれがアリシアの両手首に巻きつく。
「上手い! 魔力をつかむことができるその鞭なら、アリシアを捕らえることもできるってことか!」
 クロノが感嘆の声を上げる。
「フェイト、今や」
「うん」
 上手くいくかはわからない。でも、やるしかない。
「姉さん……」
 アリシアの胸にバルディッシュを突き立て……。
「カア……サン……、フェ……いト……」
 アリシアが、はやてとわたしを見る。
 その瞳には、透き通った大粒の涙。
「姉……さん?」
 そう、プレシア母さんの漆黒の涙とは違う。
 ――まさか。
「フぇ……いと……」
「姉さん!」
「カア……さん……」
「姉さんっ!」
「………。……母さん! フェイト!」
 アリシアの胸で、なにかが弾けた。
「これは……」
 弾けたのは、イデアシード。
 そして、目の前にいるのは、イデアシードの呪縛から解き放たれた、アリシア・テスタロッサの記憶の欠片。
「フェイト……」
「……姉さん?」
 記憶の欠片のはずなのに、目の前の姉は、はっきりとした口調でわたしの名を呼び、そして――
「ありがとう」
 わたしを、抱きしめた。
「おそらくは――」
 クロノが呟く。
「記憶の残骸だけを奪われたプレシア・テスタロッサと違い、アリシア・テスタロッサは、保存液に浸されていた肉体ごと取り込まれたものと思われる。でなければ、ケタ外れの魔力や対魔特性、それに自身の意思でイデアシードを吐き出したことの説明がつかん」
「じゃあ……」
「うん」
 アリシアが、小さく頷く。
「わたしはすでに死んだ人間。この体もそんなに長くは持たずに消滅してしまうと思う。でも、それまでの間は、わたしはフェイトのお姉ちゃんだから」
 と、抱きしめていた腕を解き――
「だから、けりをつけよう」
 アリシアが虚空を見上げる。
 そこには、アリシアという依り代を失ったイデアシードが、周囲の遊具や木々を取り込み、異形の物体へと変貌を始めていた。
「フェイト、いくよ」
「うん、姉さん」
 姉さんに応え、わたしもバルディッシュ・アサルトを構える。
「フェイトちゃん、すごく嬉しそう」
「せやなー。……フェイト、アリシア、うちがこいつの胸に風穴を開けたる。コアが見えたら全力でバルディッシュを叩き込むんや。ええな?」
「わかった、母さん」
「え、えと、フェイトも、ええな?」
「うん、母さん」
「あ、あはは、うち、この若さで二人の子持ちになってもた」
 はやて母さんが苦笑いし、そして――
「いくで。必殺、デバイスユニゾン!」
 明らかに思い付きであろうその叫びと共に、鞭とシュベルトクロイツが融合し、銀色の鞭になる。
「貫け! シュベルト鞭!」
 そのネーミングはどーにかならないものか。
 一瞬、アリシアと顔を見合わせて苦笑し合い、イデアシードに向き直る。
「よっしゃ!」
 怪物と化したイデアシードを貫いた銀色の鞭。その直径が一メートルほどに広がり、はやてが鞭を引き抜くと、文字通り風穴が出来上がっていた。
「姉さん!」
「うん、見つけた!」
 風穴の中心に浮かんでいる黒いコア。
「バルディッシュ! ザンバーモード!」
「バルディッシュ! アサルトモード!」
 二人並んで、半身に構え――
「「アタック!」」
 同時に地面を蹴る。
 姉さんと左右対称のモーションでバルディッシュを振りかぶり――
「「チェストぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」
 寸分の狂いもなく。
 アリシアの斬撃とわたしの突きが、同時にコアを捕らえた。

    ◇

「姉さん……」
「フェイト……、ありがとう、母さんとわたしを助けてくれて」
 イデアシードは消滅し、その場にはアリシア姉さんだけが残された。
 今にも消えてしまいそうな姉さんの姿に、わたしは溢れる涙を抑えきれず、しゃくりあげながら、ただひたすらに……。
「やだなぁフェイト。そんなに泣かれたら、まるでお別れするみたいじゃない」
「え? だって、消えちゃう、って」
「うん、わたしの魔力が尽きたら、この体を維持できなくなって消えちゃうよ」
「やっぱり……」
「まて」
 再び涙が溢れそうになったわたしを、クロノが制する。
「アリシア、お前のその膨大な魔力が尽きるのに、何年かかる?」
 そこで、わたしも、みんなも気づいた。アリシアが、いたずらっ子の微笑を浮かべていることに。
「んー、早くて八十年ぐらいかしらね」
 今の言葉を理解するのに、何秒かかっただろう。
 ただ、それの意図することを理解した瞬間、わたしはさっきまでとは違う涙が止まらなくなった。
「そういうことだ。……偶然とタイミング、それにフェイトとの絆やはやての蒐集スキル……、いろいろな要因が重なった上での奇跡のような現象ではあるが、プレシアが探し求めた答えはジュエルシードではなく、他次元にあったということだ。皮肉なことに」
「彼の言うとおり、イデアシードは蘇生術でも不死の法でもない。これは、いわゆる奇跡」
 奇跡の張本人が、まるで他人事のように呟く。
「さて、アリシア・テスタロッサ。今の君の年齢がいくつかによって、俺に姉ができるのか、それとも妹がひとり増えるのか、そこらへんが微妙に変わってくるんだが」
「レディーに歳を尋ねるなんて、デリカシーがないよ。クロノ君♪」
「な……!」
「あはは……、ね、行こ、姉さん」
 いたずらっぽく笑う姉さんに手を差し出し――
「ん、そうだね」
 姉さんがその手を握り返してくる。
「行くって、どこへ?」
「「散歩」」
 二人同時に、そう答える。
 ねえさんに、この世界を見せてあげるんだ。

 プレシア母さんとは悲しい別れをしてしまったけれど。
 取り戻そう。わたしと、なのはと、はやてと、みんなで。
 アリシア姉さんが眠っていた時間と同じぐらいの幸せを。
 ――ううん、同じじゃ足りないよね。
 アリシア姉さんとみんなで、両手いっぱいの幸せを――


 あとがき

 WebでのSS掲載はホントに久しぶりですね。
 今回は、月の迷宮の総集編です。
 5月の即売会で、このお話の後日談的な位置付けでアリシア本を発行するのですが、すでに月の迷宮3部作は完売してしまっているため、急遽総集編を用意しました。
 基本的にはいつもより厚めの同人誌として提供していきますが、買いそびれた人、またはそれすら完売してしまったとき用に、Web版も用意しました。
 とはいっても、本の内容をそのまま載せてしまっては買ってくださった人に申し訳が立たないので、本よりもさらに簡略化してあります。一番大きな変更点としては、ヴォルケンリッターの出番が全削除されたということでしょうか。
 ともあれ、うちのアリシアを何卒宜しくお願い致します。

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