カチッ。
「朝ー、朝だよー」
「う、うーん……」
もうそんな時間か……。
カーテンの隙間から差し込む光が、まぶたを通して目に入ってくる。
だが、もう少しこのまどろみを味わいたい。
まだボーっとする頭でそんなことを考えつつ、ごろんと寝返りを――
「たい焼き食べて遊びに行くよー」
がばっ。
する間もなく飛び起きた。
「あ、おはよう、祐一君」
枕もとには赤いカチューシャ。
もとい、赤いカチューシャをつけた女の子。
…そうだった。
昨日もあゆが泊まっていったんだった。
「朝ー、朝だよー」
ぺちん。
「うぐぅ、ボク時計じゃないよ……」
「時計の真似しておいて何を言うか」
叩かれた頭を両手で押さえながら涙目で抗議するあゆにそう言い放って、俺はベッドから降りた。
「しかもちゃんと止まってるし」
「……うぐぅ」
さしずめ、最初の『かちゃ』は、こいつが目覚ましのスイッチをオフにした音なんだろう。
「まったく、普通に起こせばいいのに」
「それじゃ芸がないかなと思って」
「おまえは存在自体が芸だから、そんなこと気にする必要は全くないぞ」
「うぐぅ、すっごく失礼なこと言ってる……」
また涙目になりながら、俺を見上げる。
そう、こいつはまだ枕もとに座り込んでいた。
「で、いつまで枕もとに座ってるつもりか知らんが、俺はこれから着替えるから……」
「…あ、うん、すぐ出て……」
「そこでしっかり見物していてくれ」
「……えっと」
なにを言われたのかよくわかっていないようで、あゆは座ったままきょとんとしている。
「今なら出血大サービスで、下着も着替えてやるぞ」
「ボク、帰る」
やっと状況を理解したあゆが、いそいそと部屋から出て行こうとする。
が――
「うぐぅ」
ドアの前に立つ俺に行く手をさえぎられ――
「祐一君……」
そしておもむろに服に手をかける俺。
「……名雪さん、助けてぇ」
「日曜の朝7時だぞ、こんな朝早い時間に名雪が起きてるわけないだろう。あきらめておとなしく俺の裸体を見るがよい」
「うぐぅ」
なんか俺っておもいっきり悪役なのではないかとか思ったりもしたが、まあ別にホントにパンツまで脱ぐ気は毛頭なく、ただあゆをからかって遊んでいるだけなので――
「…うぐぅ」
……あゆ本人がからかわれてることに気付いてないってのがちょっと問題のような気もするがまあそれはさておき――
「よ、っと」
上着を脱ぐ。
「ホントに脱いだぁ……」
「だから着替えるって言っただろ―が」
「うぐぅ、名雪さーん……」
「だから名雪は……」
がちゃ。
「うにゅ?」
「名雪は………」
「名雪さーん……」
あゆの視線の先、つまり俺の背後には――
「…おはよーございます」
名雪がいた。
「お、おはよう、名雪」
「……祐一、裸?」
「……え?」
……そう、俺は今、上半身裸で、
「うぐぅ」
部屋の中には、涙目のあゆがいて、
……これってつまり、見方によっては、俺があゆを襲っているように見えてもいたしかたない状況なのではないだろーか?
そんなことを思ったりもしたが、とりあえず、平静を取り繕って名雪の方を振り向き――
「な、名雪、今日は早起きなんだな」
「くー」
起きてねーし。
「さては、トイレに起きて、戻る部屋間違えやがったな」
「うにゅ、……祐一、裸?」
無限ループの様相を呈してきた。
「名雪さん…、祐一君が、ボクを……」
「誤解を招くような言い方はやめい!」
「くー」
もう滅茶苦茶である。
「祐一」
「な、なんだ?」
「裸」
マジで無限ループか。
俺が真剣にそう考えたとき――
「だめだよ、こんなところで脱いじゃ」
「……はい?」
「お洋服脱ぐときは、脱衣所だよー」
そう言って、俺の腕を掴む。
「名雪?」
「脱衣所、行くよー」
「名雪さん、寝ぼけてる?」
「うむ、どうやらそのようだ。が、それ以上に問題なのは……」
「問題なのは?」
訊いてくるあゆに、今度は俺が涙目になって、
「何故か俺が引きずられているということか」
名雪に腕を掴まれ、ずりずりと引きずられながら、なんとか冷静に考えてみる。
「掴まれた腕を振り解けないのは、何故なんだろうなー」
考えてたら、疑問が増えてしまった。
「祐一君」
遠ざかる視界の中で、あゆの声が聞こえた。
「ちょっと気になったんだけど、脱衣所って1階だよね?」
「みなまで言うな、俺も今同じことを思った」
と、名雪を見上げ――腕をつかまれて引きずられているから、俺は今ほぼ水平になっているのだ――
「名雪、とりあえず起きてくれ。寝ぼけたままじゃ階段が……」
そう、あと3歩進むと階段が――
「うにゅ?」
あと2歩。
「名雪!」
1歩。
「……かいだんって、なに?」
ゼロ。
「南無……」
回る世界。
全身を襲う衝撃。
薄れゆく意識の中で、
もはや遥か上方になってしまった俺の部屋から、あゆのそんな呟きが聞こえたような気がした。
あとがき
おかしいなぁ。
祐一とあゆが遊びに行くお話を書こうと思ったのに、遊びに行く前に祐一が帰らぬ人に(死んでません)。
書き終えてから、高いところから落ちるっていうのは、祐一にとってもあゆにとってもトラウマなのではないかとか思ったりもしましたが、まあただのギャグ話ですんで気にしないことにします(ぉ。
ええと、これは、BSでコピー誌として発行していた一連の鯛シリーズの、いわば第3弾です(今考えた)。
前2作とはシチュエーションが違いますが、まあギャバン&シャリバンとシャイダーとの違いみたいなもんですか。
ちなみに今回、実験的に、メインサイトとiモードサイトと両方に掲載してみましたが、これって意味あるんでしょうか? よくわかりません(苦笑)
次はiで名雪の甘々ですかね。AIRも書きたいんですけどね。
あ、それ以前にBSの原稿か(笑)
ああ、ちびの8話もか(爆)