「観鈴……」
往人さんはひとり海を眺めていた。
「いなくなってから気づく、か。まったく、小説みたいだな」
寄せては引く波打ち際。
砂浜に座り、ただそんな波だけを眺めていた。
往人さんが戻ってきたとき、すでに観鈴さんはこの町に存在していなかった。
ううん、もはやこの世界のどこにも存在していない。
塞ぎこんでいる晴子さんからなんとか事の次第を聞き出した往人さんは、絶望感に打ちひしがれていた。
「もう、会えないのか?」
呟く。
「変なジュースも、恐竜も、トランプも、なんにだって付き合ってやるのに……」
「が、がお……」
「そう、その変な口癖だって、もう叩いたりしないのに……」
力なく呟き、自分の荷物に手を伸ばす。
「悲しくても、腹は減るんだな俺……」
自嘲気味に笑いながら、わたしを掴みあげる。
「そういや、この町に来て最初に貰ったおにぎりも、こんなばかでかいやつだったっけ」
そして、まずひとかじり。
がぶり。
「いたい……、が、がお……」
「涙のせいかな、おにぎりがしょっぱいぜ。ていうか鉄分たっぷりだぜ」
「がお……、わたし、おにぎりじゃない……」
「くそ、幻聴まで聞こえてきやがった。観鈴、俺を助けてくれ」
「ゆきとさん、ゆきとさんってばー」
「空の向こうにいるのか観鈴……、どうしてひとりで……」
「いたいよー、かまれたところから血がでてるよー」
「観鈴……」
「ゆきとさんてばー」
「………」
「ねえねえねえー」
「どやかましいわボケぇっ!」
「うわっ!」
怒号と共に立ち上がった往人さんは、ひどいことに、そのまま手に持っていたわたしを砂浜に投げつけた。
「おにぎりだと思って取り出したものが謎の生き物だったときの驚きがお前にわかるかっ!」
「ひどいよゆきとさん」
「勝手に名前で呼ぶな観鈴の生首! 人が一生懸命現実から目を背けようとしてるのに喋り倒しやがって!」
「生首じゃないよ、わたしはデジモン……」
ガオモンっていうちゃんとした名前があるんだから。
「デジモンだかパチモンだか知らんが、そもそも俺のおにぎりはどうした」
「ごちそうさまでした」
ぺこりと挨拶。
「ドライブシュートがいいか? それともスラムダンクでも決めるか?」
「が、がお……、どっちも痛そう……」
「選択の権利ぐらいはくれてやる」
「が、がお……」
往人さんの顔は真剣だった。
びんぼー暮らしが長い往人さんにとって、食べ物の恨みは普通の人より強烈だってことを、わたしはうっかり忘れていた。
おなかが減っていたばっかりに。
「み、みすずちん、ぴんち」
「誰がみすずちんだコラ」
かわいらしく言ってみたけど逆効果だったみたいで、往人さんからはさらに怒りオーラがだだ漏れていた。
「ふむ、権利も放棄するか。じゃあそうだな、バスケットのゴールは見当たらないから、ドライブシュートで海塵に帰すか」
「だ、だめだよ、わたしはデジタルワールドに戻らなきゃいけないんだから」
「はぁ? デジタルワールド? なんだそりゃ?」
興味をもってくれたらしく、往人さんは後ろに振り上げた足を戻して聞いてきた。
「デジタルワールドはね、空の向こうにある、もうひとつの世界」
「空の向こう? 観鈴が行った、あの空の向こうか?」
「うん。わたしはそこから来たんだよ」
「空の向こう……。じゃ、じゃあ、もしかして観鈴もそこに?」
「うん。……会いたい?」
「そりゃあ……、会いたいさ」
照れくさそうに、往人さんは言う。
「じゃあ、一緒に行く?」
「行けるのか?」
「うん、ゆきとさんなら、きっと行ける」
そして、廃駅に出来たゲートをくぐり、わたしと往人さんはデジタルワールドへと旅立ったのでした。
「観鈴……、いま行くからな」
そうそう、往人さん。
デジタルワールドに観鈴さんがいるって言ったけど……。
ごめんね。
あれうそ。
あとがき
1年10ヶ月ぶりでございます。アユモンACT3です。
なんでここまで間が空いたのかは……まあとらハとかマリみてにかまけてたこと、そして一昨年末あたりからゲーム系のイベント(即売会ではない)に行くようになり、同人誌用の原稿を書くので手一杯になっていたということ。まあいい訳はこんな感じでしょうか?
とりあえず、今年に入ってからの怒涛の週末イベントラッシュも一息つき、今年初めて何もない週末が手に入ったので、ふと思い出して書いてみた次第です。
ちなみに構想自体はかなり前からあったので、書き始めたら早かったです。ていうか今ワードの編集時間見たら41分でした(ぉ
ACT2を書き終えたころから考え始めていた話だったので、オチがあずまんがだったりとかかなり古臭かったりはしますが、とりあえず書きあがったのでほっとしてます。
では、また次回。
……と、ここまで書いてびっくりしました。
なにがって、いままでのACTシリーズってあとがき書いてないじゃん(爆)