「こんにちはー、誰かいますかー?」
「はーい、っと、ごめんなさい、今ちょっと……」
と、返事しながら初音が玄関のほうを見る。
「………」
その瞬間硬直し、そして、一瞬後に何が起こったのか理解し、満面の笑顔になる。
「耕一おにいちゃ〜ん!!」
「うわっと!!」
「どうしたの? 来るなんて聞いてないよ? ……あ、ひょっとして内緒にして驚かせようとか思ってた?」
耕一に抱きついたまま(跳びついたと言ったほうが正しいが)、一気にまくし立てる。
「あー、いや、まあ、その通りなんだけど、……迷惑だった?」
「え? そ、そんなことないよ! 来てくれてすっごいうれしいよー!」
「でも、今ちょっと、って言ってなかった?」
「………あ」
「この惨状をほっぽらかして男と乳繰り合うとはいい度胸でちね」
「ちちくり……なに?」
「初音ちゃんは知らなくてもよろしい」
と、耕一が目の前の子供を見る。
「………なんでちか? 押し売りなら押し返しまちよ?」
「どこの世界に押し売りに抱きつく美少女がおるか」
「ふむ、正論でちね」
「び、びしょーじょ?」
「このアホ毛はほっといて、と。まあとにかく中へどうぞでち」
「うむ」
「……ひどい、二人とも……」
とにもかくにも、耕一は、なぜかマルチに先導され、柏木家へと入っていった。
◇
「……なんじゃこりゃ」
中へ通された耕一が目にしたのは、襖や障子が根こそぎ破られ、ちゃぶ台はひっくり返り、畳は引き裂かれてささくれ立ち――とまあ、ものすごい有様になっている居間であった。
「ちょっとちらかってまちが、まあ大目に見るでち」
「ちょっとちらかってるってレベルじゃないぞこれは。初音ちゃん、どういうことだい? まさか強盗にでも入られたんじゃ……」
「ううん、えっと、そうじゃなくて」
「めんぼくしだいもございません。すべてわたくしのせいでございます」
誤魔化しきれないと思ったのか、いきなりマルチが深々と頭を下げる。
――と。
「オマエか」
「ぐえ」
「オマエがやったノカ」
「ぐえ、ぐえ」
襟首を捕まれて揺さぶられ、つぶれたヒキガエルのような声を上げるマルチ。
「初音ちゃんたチの家をこんナにしテおいテ、誤魔化ソウトしタのかオマエは」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「お、お兄ちゃん、爪と牙! 出てる! 出かかってるよ!」
「……む」
べちっ。
と、初音の声で我に返ったのか、襟首を掴んでいた手を離し、マルチを落とす。
「ぐえ」
それはそれでつぶれたヒキガエルなのだがまあいいとして。
「すまんすまん、ついうっかり」
「あ、あう、なんか、とんでもないトラウマが出来てしまったでち」
顔面蒼白で呟くマルチ。
「とにかく、この惨状をなんとかしないとな」
「そうだね」
「千鶴さんや梓が見たら、間違いなく……」
「うん、間違いなく……」
「スクラップだよな」
「だよねー」
「ガタガタブルブル………」
何気ない耕一と初音の会話。だがしかし、その内容は、マルチを戦慄させるに十分なものだった。
「おい、マルチとやら」
「あ、あい?」
居間のすみっこでうずくまってふるえていたマルチが恐る恐る顔を上げる。
「にわかには信じがたいことだが、お前もメイドロボの端くれだそうだな」
「は、はしくれって、あたちは立派なめーどろぼ……」
「…………」
「になれるように日夜精進致しておりますです、はい」
大げさに部屋を見回す耕一に気づき、消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。
「というわけでマルチよ」
「あい?」
「片づけろ」
「……ほへ? あたちがでちか?」
「片ヅケロ」
しゃきん。
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
耕一の鋭い爪(とトラウマヴォイス)に思いっきり反応し、マルチが飛び上がり、したぱたと動き始める。
そして――
「とお!」
ばりん。
「きえぇぇぇぇっ!」
がっしゃん。
「あちょー」
どっかん。
「………………」
「だ、だからね、お兄ちゃん」
初音が、引きつった笑顔を浮かべる。
「マルチちゃんが『お掃除』すると、何故かこうなっちゃうんだ……」
「ああ、よくわかったよ。あのガキがどれだけ危険かってことと、それから――」
「それから?」
「もう、千鶴さんや梓が帰ってくる前に元通りにすることは不可能だってことが」
「……うん、そうだね。……どうしよう、マルチちゃん、八つ裂きにされちゃうかも」
「……グッバイ、スクラップ」
あまりのすがすがしい暴れっぷりに止めにはいることも忘れ、ただ不穏な会話をしつつ、マルチの暴挙を見つめる二人であった。
あとがき
やっと出来上がりました。お待たせしました。鶴来屋ちびマルチ3日目です。
「遅すぎ」
面目次第もございません……
ええと、ちゃんとちびマルチになってるでしょうか? 最近とらハとか君のぞとか、甘いのばっかり書いてるんで、コメディ&3人称ってのは結構難しかったり。
「それはいいんだけどさ、あたしの出番は?」
ない。
「なにぃ」
だって、梓は部活に行ってるじゃんか。今回はお留守番の初音ちゃんのお話。
「くそう、耕一が来ると知っていたら、あたしも残ったのに……」
まあそれはさておき。
「こら、ちょっと待て!」
炊事、掃除と来たから、次は洗濯だなと漠然と考えていたんですが、結局お掃除大暴れマルチで引っ張ってしまいました。
「無視すんな、おい!」
今後もマルチ&初音&耕一を軸に展開していくと思われますが、
「な、何言ってんだ、そんなのあたしが許さな…」
マルチがスクラップの危機をどう乗り越えるのか、僕もハラハラしながら書いていきたいと思っています。
では、また次回!
「待てってば、おーい!」