「ふあ……、朝か……」
障子越しに射し込む光に目を細めながら、耕一は体を起こす。
「あ、そうか」
自分の部屋でないことに一瞬違和感を覚えたが、すぐに昨日の出来事を思い出し、記憶が繋がる。
「早く居間に行かないと梓にどやされるな……」
そんなことを思いつつ立ち上がろうと――
「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「うわっ!」
――した矢先に、そんな物凄い絶叫が聞こえてきた。
◇
「いやぁ、初音ちゃんでも寝ぼけることがあるんだねぇ」
「…………」
大絶叫から数分後。居間で食事をとっている面々が、顔を真っ赤にして俯いている初音をなんとか元気づけようといろいろ話しかけるが、いっこうに事態は進展しない。
「まったく、あたちのてーそーを奪っておいてだんまりとは、いい度胸でちね」
「オマエは黙ってろ」
「あう」
昨晩、『マルチちゃんと一緒に寝たい』との初音のたっての願いで、二人は初音の部屋で寝ていたわけだが、どうやら朝方に、寝ぼけた初音がマルチを抱きしめて唇を奪ってしまったらしい。
それだけなら、女の子同士(片方はロボだが)だし、さしあたって問題は内容に思うのだが、なぜか初音はそれからずっとこんな調子なのだ。
「マルチちゃんも、もう許してあげたら? 別に舌入れられたわけじゃないんでしょ?」
「ぶっ!」
千鶴のその言葉に、梓は味噌汁を吹き出し、そして耕一と楓は硬直してしまった。
「ち、千鶴姉!」
「ん? なに?」
「て、天然か、このアマ……」
「あら、姉に向かって『このアマ』だなんて、命を粗末にするものじゃないわよ」
「そこ、いきなり姉妹ゲンカ始めないでください! 楓ちゃんも、いつまでも固まってないで。ほら、今日部活なんでしょ? 遅れちゃうよ?」
「かわいそうに……。客なのに」
フォローに奔走する耕一を見て、ほろりと涙ぐむマルチ。
「泣いてないで、オマエもなんとかしてくれ」
「あいよ」
右手をぴこっとあげて軽い返事を返し、マルチは初音に向き直る。
「初音しゃん?」
「…………」
「べつに舌入れられたわけでもチチ揉まれたわけでもないでちから、あたちは気にちてないでちよ?」
「…………………」
「初音しゃん?」
「………………………よ………」
「おろ?」
黙ってる訳じゃなく、なにやらブツブツ言っているということに気づき、マルチは初音に近づいて耳をそばだてる。
「聞かれた……絶対聞かれちゃったよ…………」
「ええと……」
初音の呟きを聞き、マルチが考え込む。
「マルチ?」
「待ちんしゃい」
耕一を制し、腕組みしたままひたすら考え込む。
やがて――
「おお」
ぽんと手を打ち――
「聞かれたというのはあれのことでちね? あたちに抱きついたときに『こういちおにい……むご」
初音がマルチの口を押さえるが、もはや手遅れで。
「つまりあれか、初音。寝ぼけたお前は、マルチを耕一と間違えて抱きしめたあげくにキスしたと。大胆なことするねぇ」
「あう……」
梓に冷やかされ――
「あらあら、まったく、初音はおませさんなんだから」
「うあ……」
目が笑ってない千鶴に微笑みかけられ――
「……不潔」
「がーん……」
楓に一刀両断され――
「は、初音ちゃん?」
「……………」
「……あい?」
そして、一通り落ち込んだ後、視線はマルチに向けられ――
「……おろ?」
その手はマルチの襟首に伸びていった。
◇
「初音しゃーん。そろそろ許して欲しいでち〜」
「だーめ」
物干し竿に吊されたマルチと、縁側に座ってそれを眺める初音。
「めーどろぼが動きを封じられるというのは、かなりつらいのでちがー」
「だからこうやって話し相手になってあげてるでしょ?」
「そーゆーことではなくてー」
「ひょっとして、初音ちゃんって、怒らせると怖いのか?」
「……千鶴姉さんよりも」
「マジか!?」
そんな耕一と楓の会話が聞こえているのかいないのか、初音はただニコニコと吊されたマルチとおしゃべりしていた。
あとがき
「……これでは初音SSではないでちか」
まあそう硬いこと言わんと。
「しかもセリオさんはどこ行ったでちか?」
まあそう硬いこと言わんと。
というわけで鶴来屋ちびマルチ3日目、いかがでしたでしょうか?
「……3日目?」
前回(3日目)と前々回(2日目)のお話が続き物だってことに気づきまして、それぞれ2日目のその1とその2っていうふうに直したのですよ。
「おおなるほど。おまぬけ前回でちね」
うるさい。
そんなこんなで、初音ちゃんのほのかな恋心と暴走っぷりを描いたわけですが、やっぱりもう少しマルチ寄りのお話にしないといかんなと思う今日このごろです。
「少しどころか」
そんなわけで、次は5万ヒット時です。
ではまた〜。
「ばいばいきーん」