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Lovable


「ごめん、待たせちゃったかな?」
「あ、いえ、今来たとこですから」
 放課後、待ち合わせ場所である翠屋に入ってきた先輩は、すぐに窓際の席に座っている私を見つけ、そう言って向かいに座った。
 先輩が大学に進学して、しかも今年は私が受験生ということもあって、あんまり会えなくなるんじゃないかなと思っていたけれど、先輩が、私との時間を大切にしたいからとサークルに入らなかったことと、九月に私の推薦入学が早々に決まったことで、それからは毎日のように翠屋で会っている。
 まあ、それまでも週一〜二回は会っていたのだけれど。
 ただ、今日の待ち合わせは、ちょっと特別な意味がある。
「パンフレット、もらって来たよ」
 注文を取りに来た金髪のウエイトレスさんにコーヒーを頼んでから、先輩は持っていた旅行会社のパンフレットをテーブルの上に広げた。
「クリスマスはこっちで過ごすとして、問題はその後だよね」
「そうですね、先輩はどこか行きたいところってあります?」
 そう、もうすぐクリスマス、そして冬休み。
 私の推薦試験が迫っていたために夏はどこにも行けなかったから、その分冬休み一杯かけて、どこかへ旅行に行こうと、そういうわけで。
「そうだなぁ……、俺はさくらと一緒ならどこだって楽しいんだけど」
「私も、先輩と一緒ってことが重要だから、場所は……」
「はいはい、ごちそうさまー」
「うわっと! もう、店長さん、びっくりするじゃないですか」
「んもう、若いっていいわねぇ、お姉さん聞いてて恥ずかしくなってきちゃったわ。あ、コーヒー、お待ちどうさまね」
 と、コーヒーカップを置き――
「じゃあ、しっぽりとごゆっくり〜」
 ほぼ毎日ここに来ているせいか、すっかり顔なじみになってしまった店長さんは、ひらひらと右手を振りながら戻っていった。
「まったく、油断も隙もない人だ」
「でも、綺麗な人ですよね。中学生のお子さんがいるとは思えない」
「まあ、いろいろと訳ありらしいけどね」
「あ、で、先輩、旅行なんですけど」
 カウンターの奥からの店長さんの『話が逸れてるわよ』というブロックサインに気づき、話を旅行に戻す。
「さすがに海外は資金的に厳しいから、やっぱり温泉でゆっくり、っていうのがいいんじゃないかなと思うんですけど」
「温泉かぁ、いいねぇ。えっと、国内のパンフレットは、と……」
 と、二人で温泉旅館のパンフレットを見る。
 が――
「……正月って、高いんだね」
「そうですね……」
 二人でため息。
「雰囲気があって、団体客とかうるさいのが来なさそうで、露天風呂があって、ついでに混浴できるとこ、ってだけで選択肢が狭まるのに、長期滞在となると……、冬休み一杯どころか年越すのも資金的にきついなぁ」
「そうですね……、もうちょっと妥協するか、近いところを探すかしないと……、あ」
「どうしたの?」
「別荘……」
「え?」
「別荘、使いますか? 忍の」
「忍ちゃんの? 去年の夏に使わせてもらったところ?」
「はい。使えるかどうかは忍に聞いてみないとわかりませんけど、とりあえず条件は満たしているんじゃないかなと」
「あー、うん、そうだね。海が近いから雰囲気もばっちりだし、静かだし、露天風呂もあるし、一緒に入ってあんなことやこんなことも出来るし」
「……やっぱりやめよっかな」
「ああうそ! 冗談だって!」
「冗談なんですか? ……そっか、なんにもしてくれないんだ。私、魅力ないのかな……」
「ああもう、どっちなんだよ〜!」
「あはは……」
 頭をかきむしる先輩を見てたら、自然と笑いがこみ上げてきた。
「さーくーらー……」
「あ、いえ、その、てへ」
ジト目で睨む先輩から微妙に目をそらし、ちょろっと舌を出してみる。
「あ、う……」
効果覿面。
……と、まあ、先輩をからかうのはこのくらいにして。
「じゃあ、別荘が使えたら、そこで決定ということで」
「あ、うん。忍ちゃんが迷惑でなかったら」
「それは、たぶん大丈夫ですよ。忍、先輩のこと気に入ってるみたいですから」
 気にしている先輩を安心させるように微笑む。
 けど――
「さくら、目が笑ってないよ……」
 あれ?
 そんなつもりは……。
「まったく、さくらはやきもち焼きなんだから」
「そんな、だって、忍はまだ子供で……」
「でもまあ、確かに忍ちゃんはかわいいよね」
「せんぱい……」
 自然と頬が膨らむ。
「ま、さくらのほうがかわいいけどね。今のほっぺた膨らませた表情なんか、もう萌え萌えだし」
「え? ……あ」
 ニヤニヤ笑っている先輩の顔を見て、はっとなった。
「さっきの仕返し、ですね? 先輩ひどいです」
「ごめんごめん。でもさくらがかわいいってのはほんとだからさ」
「もう知りません」

 ◇

「若いっていいですねぇ、なんか胸の辺りがムズ痒くなってきましたよ」
「そうねぇ、うちの恭也にもあれぐらいの茶目っ気があれば、もっと女の子にもてるんだろうけど……」
 カウンターの奥で店長さんたちが苦笑しているのが見える。
 えっと……、
 その……、
 ……ごめんなさい。


 


 あとがき

 はい、桃子さん大活躍の巻でした(違います)。
 えー、冬コミ新刊の体験版です。これに忍視点の後日談を加えて、一冊の本になります。
 いわば第一部なわけですが、このお話にはコンセプトなんてものはなく、ただ、「ラブラブしやがれ」と。そんな感じで。
 それだけでは胸やけしそうだったんで桃子さんにご登場願ったんですが、余計だったかな?

 そんなわけで、冬コミに向けて鋭意執筆中ですんで、お暇なかたは是非。

 


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