マルチとの再会、大学卒業、そして就職、・・・そう、すべてがうまくいっていた。
マルチとの生活も、その後のあかりとの関係も、何も問題なかった。
・・・メイドロボに夢中になっているバカな男? そんな陰口にもいい加減慣れた頃の災厄、いわば恐怖の大王。
それは突然に、俺とマルチに襲いかかって来た。
事の発端は、一昨日の夜・・・。
思い出すだけでも・・・・・・・・・・・・・ほっぺたがゆるむ(笑)。
「へみ? どうちまちた?」
ん? ああ、なんでもないよ。
なでなで。
「あうあう・・・」
それは、おとといの晩の出来事・・・。
「ただいまー」
「あ! おかえりなさーい」
仕事から帰ってきた浩之が、いつものように玄関のドアを開ける。
そして、とててててと玄関先に走ってくるマルチを抱きとめ、ただいまのキス。
「おかえりなさい、浩之さん」
マルチはもう一度、今度はしっかりと浩之の目を見て、愛であふれてますって感じで言う。
マルチがエプロンを着けているということは、晩御飯を作っている最中だったのだろうが、そんなときでも、浩之が帰ってくると一目散に出迎えにくる。
一回それでてんぷら油が炎上して大変なことになったが、まあそれはおいといて。
「もうすぐご飯になりますから」
「ああ」
浩之の上着をハンガーに掛けてから、マルチは台所に入っていった。
においから察するに、今日は焼き魚か・・・。それとも一歩間違ってケシズミか・・・。
「とお!」
「はあ!」
「くっ、まだまだぁ」
なにをしてるのかいまいちよくわからなかったが、どのみちもう少し時間がかかりそうだと思った浩之は、とりあえずリビングのソファーに腰掛けた。
「テレビでも見てるか・・・」
と、リモコンを手に取ったとき・・・・・・。
「はにゃぁ」
それは起こった・・・・・・。
「マルチ!?」
その悲鳴(だかなんだかよくわからない声)を聞いて、台所に飛び込んだ浩之が見たのは、力なく床にへたり込むマルチの姿だった。
「ひ、浩之さん・・・」
「どうしたんだ・・・っておまえ、すごい熱じゃないか!」
抱き寄せたマルチの体は、人間の発熱とは比べものにならないくらい、とにかく熱かった。
「あ、あの・・・、急に体に力が入らなくなって、それで・・・、はうぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」」
「わかった。とにかく、長瀬のおっさんのトコに電話するから」
玄関にある電話まで行くとマルチを看ていられないから、ポケットから携帯を取り出し、来栖川重工に電話をかける。
ぴ。
ぷつ。
・・・・・・テレビがついた。
「な、なぜリモコン・・・・・・」
「ひ・・・、浩之さんってば、あわてんぼ・・・はぅぅ・・・・・・」
気を取りなおして、もう一度ポケットをまさぐる・・・・・・、今度こそ間違いなく携帯電話であることを確認し、すでに場所を覚えている指が、通話ボタンを押す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
トゥルルルルルルルル。
「早く・・・、早く出てくれ・・・」
がちゃ。
「はい、来栖川重工ユーザーサポートです」
受話器から聞こえてきたのは、妙に懐かしい、聞き覚えのある声。
「ひょっとして、セリオか!?」
「・・・・・・声紋確認。お久しぶりです浩之さん。HMX−13セリオです。どうなさいました?」
「あ、あの、その・・・・・・そうだ! きゅ、救急車まわしてくれ!」
沈黙・・・。
「・・・・・・それでしたら、119番の緊急車両のほうがいいかと存じますが」
「じゃなくて! ・・・すまんちょっとパニクってた。えっとな、マルチがぶっ倒れたんだ。んで、体が異常に熱くて、力が入らないらしいんで、長瀬のおっさんに診てもらいたいんだが・・・・・・」
「はい、少々お待ちください。・・・・・・・・・・・・データ照合。了解しました。緊急メンテナンスが必要と判断されましたので、これよりお迎えにあがります。そのままおまちください」
「ああ、たのむ」
「では」
がちゃん。
「よし、もうちょっとの辛抱だぞ、がんばれマルチ」
「はうぅぅぅ・・・、申し訳ありませぇん・・・」
浩之の腕に抱かれながら、ひたすらあやまるマルチ。
「わたしったら、浩之さんにご迷惑ばかり・・・」
「なにいってんだ、浩之だってたまに風邪ひいてマルチに迷惑かけてんだから、お互い様だろうが」
「浩之さん・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・。
ぴんぽーん。
「来たか、よし、マルチ、俺につかまれ」
「は・・・はい・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「来栖川重工です。お迎えにあがりました」
「お、セリオが来てくれたのか。それにしても早いな、まだ2,3分しか経ってないぞ」
マルチをおぶって外に出た浩之の目の前には、サイドにでっかく来栖川重工と書かれた車と、運転手のセリオがいた。
セリオは相変わらずの無表情で、後部座席のドアを開けて待っていた。
「では、ちゃっちゃと乗ってください」
「ちゃっちゃと・・・っておまえ・・・」
相変わらずの無表情。だが、その視線は、マルチだけを追っていた。
無表情ではあるが、やはり姉であるマルチのことは心配のようだ。
そう、表情にこそ出さないが、セリオもあせっているのだ。はやくマルチさんを長瀬開発主任に診てもらわないと、と。
ばたん!
後部座席のドアが勢いよく閉められ、続いてセリオが運転席に乗り込む。
「・・・行きます」
「おお、ばびゅーんと行ってくれ」
「・・・・・・ダウンロード開始」
数時間後。
「どうした? 浩之君」
「ん? ああ、おっさんか」
マルチの緊急メンテナンスが始まってから1時間ほどたったころ、待合室の椅子に座っていた浩之に缶コーヒーを手渡し、長瀬開発主任が隣に座った。
「ずいぶん疲れてるようだが」
「・・・・・・セリオに言っといてくれ、公道を走るときはF−1ドライバーのデータをダウンロードしないようにって」
「はは・・・、わかった、言っとこう」
「で、マルチは? あんたがここに来たってことは、検査の結果が出たんだろ?」
「ん? ああ、まあ、ね。君が結構冷静なんで安心したよ。マルチは無事だ、意識もしっかりしてる。ただ、まだもうちょっと調べなければならないことがあってね、申し訳ないが、明日のこの時間に、マルチを迎えに来てくれないか?」
「・・・・・・わかった、マルチを頼む」
「ああ」
そしてその後、浩之はマルチに会った後でセリオに送ってもらい、家に帰った。
次の日。
「こっちに来てくれ」
そう言って長瀬開発主任が案内してきた場所は、2年D組と書かれた・・・・・・。
「ああ、表札は気にしないでくれ、ほんの軽いジョークだ」
「あ、ああ」
まあとにかく、深く考えないことにして、部屋に入る。
狭い部屋の中にある家具は本棚とテーブルだけ、そして、テーブルの上には最新型のクルスガワUプロセッサ搭載のパソコンがある。
パソコンの画面には、メイドロボのものであろうデータが表示されているが、浩之には専門外なので内容はよくわからない。
「で、マルチなんだが・・・・・・、詳しい検査結果のデータを見せても混乱するだけだろうから口で言うが、間接およびその制御機構、まあ人間の筋肉みたいなものだね、それらにかなりの負荷がかかってる。感情を持ってるマルチに、あまりこういう言い方はしたくないが、要はパーツの寿命が来てしまったということだね」
「寿命って、まだうちに来てから3年しか経ってないのに・・・・・・」
「まあ、あの子のボディそのものは、君が高校時代に会ったマルチと同じな訳だから10年ぐらい経っているんだが、それにしても早過ぎる」
「早過ぎる?」
「ああ、そこでだ、申し訳ないが、原因を調べるために、マルチのメモリーを調べさせてもらった」
「メモリー?」
「わかりやすく言うと、デジタルデータ化された日記ってところかな? それでだ、導き出された結論は・・・・・・」
ぱらぱらと、手に持ったファイルをめくっていくその手が、とあるページで止まる。
「結論は・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ケダモノか、君は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「メイドロボは、あくまで人間の手助けをするものであって、そういうコトのために作られたんじゃないんだ、毎日してたら、そりゃ間接もイカレるし熱も出る」
・・・・・・えーと。
・・・・・・つまりその・・・・・・、「えっちなこと」って意味だろうか?
なんてことを浩之が考えてる間にも、長瀬開発主任は話しつづける。
「というわけで、今のボディは間接部分の総とっかえが必要だから、直すのにかなり時間がかかる」
「時間って・・・・・・、今日迎えに来いって・・・・・・」
「そこでだ」
ぽん、とファイルを机の上に放り投げる。
「応急処置ではあるが、メモリーと感情プログラムを、別のボディにコピーしておいた。・・・・・・さあ、おいで」
かちゃ。
ドアが開く音。
浩之は気づいていなかったが、部屋の奥に、隣の部屋へとつながるドアがある。
そしてそのドアが開き、ちっちゃな人影が姿をあらわす。
「ひ、ひろゆきしゃん・・・・・・、あ、あの・・・」
出てきたのは、5歳くらいの女の子だ。髪は、きれいな緑色のショートカットで、耳のところにはセンサーが・・・・・・。
「・・・・・・えーと、念のために聞きますが、この子は?」
「薄々感づいてると思うが、念のために言っとくと、マルチだ」
「あ、あの・・・、わたし、へんでしか?」
「いや、めいっぱいかわいいけど、ってそうじゃなくて! なんでちっこくなるんですか!」
「いやぁ、あまってるボディといったら、今開発中の子供タイプHMの、そいつしかなくて・・・・・・」
とことことそばまで歩いて来て、じっと浩之の顔を見上げてるちびの頭をなでなでしつつ、目はおっさんからそらさない。
「本音は?」
妙に楽しそうに、にやにやしているおっさんの目を見て、端的に問う。
「いやぁ、その子は設定が5歳なわけだから、当然えっちな機能は何一つないわけで・・・・・・、ケダモノ君にはいい薬かなと」
「・・・・・・・・・こ、このおっさんは・・・・・・」
「それからマルチ、その姿でいるときは、彼のことは「浩之さん」じゃなくて「ぱぱ」と呼ぶこと、いいね?」
「わかりまちた、じゃ、ぱぱ、かえりまちょ?」
ちんまい手が浩之の手を握り、出口のドアへと引っ張っていく。
「ボディが治ったら連絡するから、それまでちゃんと面倒見るんだぞ、浩之君」
「くそ・・・・・・、なにがどーなって・・・・・・・・・」
ごち。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・い、いたいでし・・・・・・、どあのぶとおでこがごっつんこでしぃ」
「ああ、よしよし、いたいのいたいの、長瀬のおっさんにとんでけー」
「ぐあ! 急におでこが痛くなった!」
「あああ・・・・・・、だいぢょーぶでしか?」
ばたばたと手を動かしながら、長瀬開発主任へと駆け寄ろうとするマルチの襟首をむんずとつかむ。
「ぐえ」
「いいから、アホなおっさんはほっといて、帰るぞマルチ」
「ぐ、ぐぁい・・・・・・」
・・・・・・ともかく、それから、新しい生活が始まった。
浩之と、ちっちゃな天使との。
「よろちくおねがいちまちゅ、ぱーぱ☆」
あとがき
「あい、あとがきでし」
うむ、やっと出来た新SS「マルチ迷走〜ちびマルチ〜」第1話、いかかでしたでしょうか?
「まるち、ちっちゃくなっちゃったでし」
それがこの話のメインだからね。
「じゃ、ずっとちっちゃいままでしか?」
そうだね、最終話で元に戻るって感じかな?
「さいしゅうわって…いったいいつまでやりやがるつもりでしかぐーたらさくしゃのくせに」
・・・どこでそんな言葉づかい覚えたんだこのガキ。そーゆーこというコはげんこつで頭を・・・。
ぐりぐり・・・・・・。
「あああ・・・・・・かんにんでしぃ・・・・・・」
まったく。
「あうあう・・・・・・」
さて、マルチはほっといて、作品の解説をば。
この話を書くきっかけになったのは、以前うちの掲示板でちょびっと話題になった、「SSって何の略?」ってやつです。
SS=スーパーズ=ちびマルチ、って感じで(笑)。って、ログ残ってるのかなぁ?
あ、もちろん正解はサイドストーリーなんですが。
で、これをなぜ2000hit記念の一発ネタ(読み切り)にしなかったかと言うと・・・・・・。
「いうと?(立ち直ったマルチ)」
あかりたちがちっちゃいマルチを見たときに、一人一人がそれぞれどんな反応(対応)するか見て(書いて)みたかった。
「はう?」
ただ、いっぺんに全員出すと収拾つかなくなるから、それなら1話につき一人出してみるかなと。
「じゃああと8わでしか?」
いや、それはわからん。
「ほえ?」
理緒出すかどうかわからんし、綾香出すかもしれんし、セリオも今回あんまり出番なかったからもう一回出してあげたいし、他にも好恵とか初音とかいろいろ・・・・・・。
「は、はつねしゃんでしか!」
いやまあそれはおいといて。
「おいとくでしか!」
おまえうるさい。
「あう、めんぼくないでし」
いや、そんなに・・・・・・、うーんと・・・。
「おわりでしか?」
ん? ああ、そうだな、このままやってると本編より長くなりそうな気がするし、ここらでしめるか。
「あい」
じゃあマルチ、よろしく。
「え?」
俺帰るから、ちゃんと締めといてな。あ、第2話のゲストキャラがあかりだってことと、感想お待ちしてますってことは忘れずに言うんだぞ。じゃ、バイバイ。
「え? え? あ、あの、マルチひとりでしか? いや、その、おこさまにはちょっとにがおもいようなきがそこはかとなくするんでしが……。あれ? ・・・さくしゃ? ・・・・・・おーい・・・・・・、・・・・・・あのやろう、まじでかえりやがりまちたね? ・・・・・・ふ、ふん、いいでし、さのばびっちでし、そっちがそのきならまるちもあることないこといってやりまちゅ、えっと、も(ぷつ)」(録音時間終了)