「花見?」
「うん」
明日、公園に花見に行こう。突然浩之の家にやってきたあかりが言ったのは、つまりそういうことだった。
「花見か……、そーいや高校の時に言ったきりだな。まあべつに行ってもいいけど、雅史たちは来るのか?」
「んとね……、雅史ちゃんは佐渡島に出張、志保は東チモールに取材、だって」
「……なにやってんだ、あいつらは。……あ」
ふと、浩之は、今自分たちが玄関で立ったまま話し込んでいることに気がついた。
「あかり、上がってけよ」
「え?」
「電話じゃなくて、わざわざ俺ん家まで来たってことは、ヒマなんだろ?」
「う、うん、まあ……」
「なら、茶でも飲んでけよ」
「……じゃあ、ちょっとだけ」
そう言って、ちょっとうれしそうな表情で、靴を脱ぎだすあかり。
「じゃあ、おじゃましま……」
どどどどどどどど!
「………?」
「はりけーん、みきさー!」
「ぐおおっ!」
あかりの言葉は、謎の轟音にかき消され、ついで謎の声、浩之の叫び声、目の前に倒れかかってくる浩之。
「ひ、浩之ちゃん!?」
「あ、あかり! 危ない! そこにいるな! どけ!」
浩之の叫びも空しく、どっすん、という派手な音とともに、二人はもつれあうようにすっころんだ。
「ひ、浩之ちゃん、大丈夫?」
あかりが、なぜか顔を真っ赤にしながら言う。
「ぐ、ぐお……」
「おきゃくさまでしが?」
「き、きさ……」
「いやですねぇぱぱったら、あかりしゃんのそんなトコさわったりして、もう、えっちなんだから」
「な…にを……」
「まるち、ちょっとじぇらしーでし。えい、けっちゃえ、とお!」
「してるんだこのうすらバカムスメっ!」
びし。
勢いよく起き上がった浩之のチョップが、声の主の脳天につきささる。
「あう……、りふぢんなぼーりょくでし、よーぢぎゃくたいでしぃ……」
頭をおさえ、涙を浮かべながら、声の主――マルチと言う名のちんまいガキ――が抗議する。
が、浩之は、その押さえているちんまい手のうえから、さらにげんこつでぐりぐりと――
「うあぁぁぁぁぁ…、おいうちとはひきょーでしぃ……」
「なーにが理不尽だこのいたずらムスメが! 後ろからの体当たりは危ないからやめろって言っただろーが、こーゆーことになるんだから、わかったか?」
「あい、めいっぱいよくわかりました、はんせいしてますから、ぐりぐりはやめてください……」
「よろしい」
浩之は、げんこつをパーにかえて、マルチの頭をなでなでする。
「ふう、やれやれでち」
「なんか言ったか?」
「いーえ、まるちはいたってげんきでし」
「こたえになってねーぞ、それ」
「あ、あかりしゃんふっかつでし」
「え?」
あかりのほうに振り向く浩之。
その背後で、ふう、なんとか話をそらせたぜ的にひたいの汗をぬぐうマルチ。
「大丈夫か、あかり」
「う、うん、だいじょぶ」
そう言いながら、ゆっくりとたちあがるあかり。
まだ顔は赤いままで、なぜか胸をおさえながら……。
「あい、おちゃでし。たらふくのむとしあわせになれまし」
「くだらんこと言っとらんと、お茶菓子でも持ってきなさい」
「あーい」
お盆を両手で胸の前にかかえながら、とててててて、と、台所に駆けていくマルチ。
「あの子が……」
台所のほうを見ながら、あかりがつぶやく。
「ん? ああ……」
「浩之ちゃんの隠し子……」
ぴし。
「きゃ!」
先ほどマルチの脳天に叩き込んだ、必殺枯葉も山の賑わいチョップ(意味不明)が、あかりの脳天につきささる。
「志保のデマを鵜呑みにしてんじゃねーよ」
「冗談なのに……」
「なおたちが悪いわ!」
「でち」
……………………………。
沈黙……。
「マルチ……」
「あい?」
いつのまにかソファーに座っていたマルチが、気の抜けた返事をかえす。
「お茶菓子は?」
「そこにびしっとまんべんなくべらぼーに」
テーブルを指差すマルチ。
確かに、テーブルの上に、いつのまにか、ばかでっかい皿が置かれている。
が――
「……なんだ、この凍ったミートせんべいみたいなのは?」
その、直径20センチはある、カチカチに凍った円形の物体を持ち上げて、浩之が言う。
「みたいもなにも、こおったみーとせんべいでし。これをかじりながらいっぱいやるのが、またおつなもんだって、しほしゃんがいってまちた」
えっへんと、腰に手を当て、ソファーの上に仁王立ちする、得意げなマルチ。
「………」
「浩之ちゃん?」
下を向いて、黙りこくってしまった浩之の顔を、あかりが心配そうに覗き込む。
「………ことか」
「え?」
「志保の奴が、おととい遊びに来たんだ。めずらしいと思ったら……、そーか、そーゆーことか」
「ほかにもいろいろおそわりまちたよぉ」
満面の笑みを浮かべて言うマルチ。
「えっとでしねぇ、こーひーをいれるときは、こーひーるんばっていううたをうたいながらいれるとおいしくなるんでし。それから、まるちはれべるがあがると、めかられーざーがでるんでし、5みりのてっぱんを、わずか3じかんでつらぬいてしまうんでし! きょーふのはかいへいきなんでし! ああ……、ぐんじりようをたくらむあくのひみつけっしゃが、まるちのていそうをうばいにくるのでち! ああぁ、かんにんでしぃ!」
マルチはなにを勘違いしたのか、床に倒れこみ、ハンカチをくわえて、よよよよ……と、むせび泣いている。
「マルチ……、志保の言葉をそこまで信じて、かつ、自分なりの天然ボケ解釈を加えてしまうとわ………」
浩之は、遠い目をしながらそう呟くと、ふと、あかりのほうに向き直り――
「どうしよう」
「どうしようって…………わたしにきかれても……」
翌日。予定通り、公園で花見をする3人。
「うはーい! のむでちー! くうでちー! うたうでちー! さくらのきのしたにはしたいがうまってるんでちー!」
ごん!
「さりげなくとんでもないことを言うんじゃない!」
マルチの頭にげんこつをかまし、浩之が叫ぶ。
「でもしほしゃんが……」
「だーかーらー、志保の言うことは信じるなと、昨日あれほど言っただろうに!」
両手でマルチのほっぺたをつまんで、ぐにぐに動かしながら、浩之が――遊んでいる(笑)。
「うあああ、まるちのほっぺたはおもちゃじゃないでしぃ……」
「ふふ……」
そんな二人を見て、微笑むあかり。
あかりには、二人が、親子、恋人、友達、それらすべての関係がごっちゃになっているような、そんな不思議な感じに見えた。
「それが理想の関係なのかもしれないなぁ…」
「ん? なんかいったか?」
あかりのすぐ横に座った浩之が、弁当をつまみながら聞いてくる。
「ううん、なんでもない」
「よーし、おーさまげーむでしぃ!」
突然、びしぃ! と、天空を指差しながらマルチは高らかに宣言した。
なぜか顔が赤い。さらに左手には、空になった一升瓶。
「ちょっと待てマルチ! なんでおまえ顔が赤いんだ! てゆーか左手の一升瓶はなんだ!? 飲み食いできないんじゃないのかメイドロボは!」
「げふ、おさけなんかのんでないでち、ひっく、こんなこともあろうかと、おうちからろぼびたんえーをもってきたんでち」
「そんなハイカラなものはうちにはないっ!」
「ところがどっこい、あるんでち」
と言って、浩之の目の前に、持っていた一升瓶をずいっとさしだすマルチ。
その瓶には、マジックで「ロボビタンA」と書かれた紙が、ぺたっと貼られていた。
「……………志保の字だね」
ぼそっと、あかりが言う。
「………………………」
ぺり。
浩之が、無言でその紙をひっぺがすと、その下には――
「……銘酒・エルクゥ殺し。アルコール分97%」
もうめいっぱいアルコールだ。
「体中がアルコールで洗浄されてそうだな……」
だがそんな浩之には関係なく、マルチはごーいんぐまいうぇいである。
「おうさまげーむでしぃっ! さあぱぱ、めいれいでち、めをつぶりなさいっ!」
「いや、まず、クジかなんかで王様を決めるだろ普通」
だがマルチはぶんがぶんがと首を振り――
「まるちはうまれながらのじょていなんでち、そーいうしゅくめいなんでち! しょーこにほら、むねにななつのきずあとが……」
「ああ、脱がんでいい脱がんで。目ぇつぶってやるから」
服に手をかけたマルチを押しとどめ、浩之は目をつぶった。
「……で、どうするんだ?」
ちゅっ。
ちゅっ。
「………え?」
「いえーい! ふいうちきっす、せいこうでしぃっ!」
そう叫びながら、浩之のまわりをぴょんぴよん飛び跳ねるマルチ。
「……………」
黙ったまま、顔を真っ赤にしてうつむいているあかり。
左右両方のほっぺたに、キスの感触。
そんな、ごく平凡な、春の一日。
あとがき
なんか、第1話のあとがきのマルチの性格を、そのまま引きずっているような……。
「きのせいでし」
そうか、気のせいか、それならいいんだけど。
「いいんでしか? まあ、それならそれでよのなかもへいわですし」
(無視)今回、書き始める前に決めていたことは、
1、 花見に行く。
2、 あかりが出る。
の、二つだけでした。
「むけいかくきわまりないでし」
うるさい。
まあそんなわけで、内容がまるっきりないような気がしないでもないですが、第二話です。
ちなみに、タイトルには、まるっきり意味ありません。さらに言うと、第1話から、いきなり数週間とんでます。その間に、浩之君がどーいう教育をしてきたのか、今回のマルチを見れば一目瞭然でしょう。
「とってもいいおとーさんでし」
うそこけ。
まあそれはともかく、やっぱり、書く前に、おおまかな内容ぐらいは決めておかないとダメですね。
「まったくでし。いまごろそんなことにきづくとはおろかでし。だいたいそんなことだから、えすえすのこうしんがいっかげつにいっかいとかそーゆーことになってしまうんでし」
うるさいだまれ。
ごん!
「きゅう……」
ふう、やっかいなクソガキが黙ったところで、次回の予告です。
第三話のゲストキャラクターは、志保。
季節は5月。子供の日ですね。
まあ、もうそろそろ、「冬コミ原稿優先モード」に入ってしまうので、いつアップできるかまるっきりわかりませんが。
まあそういうことで、感想よろしく(唐突)。