ぐいぐいぐいぐい。
「ぱーぱー」
ぐいぐいぐいぐい。
マルチが浩之のそでをひっぱっている。
「うーみー」
夏休みに入ってからというもの、毎日この調子なのだ。
「やーまー」
言っていることは毎回違うが、とにかくどっか連れてけということらしい。
「はいはい、そのうちな」
「ぶー」
浩之の返事も毎回同じなら、マルチがぶーたれて終わるのも同じだった。
「せりかしゃーん」
そんなある日、マルチはふと思い立って、来栖川邸をおとずれた。
「せりかしゃんてばぁ〜」
どんどんどん。
玄関の扉をげしげしとたたくが、なにも返事がない。
「そっちがそうくるなら、あたちにもかんがえがありまちよぉ〜」
「あら、姉さんならいないわよ」
「ほへ?」
バズーカに弾を装填していたマルチが振り向くと、そこには芹香の妹、来栖川綾香が立っていた。
「あやかしゃん、いないってどおいうことでちか?」
「なんかね、夏休みを利用して、魔術書をごっそり買ってくるんだーみたいなこと言って、一週間ぐらい前に自家用機でヨーロッパに行っちゃったの」
「……はうあ」
「なに? 姉さんに用事だったの?」
頭を抱えて、おーまいがっ、ってな感じになっているマルチの目の前にしゃがみこんで、綾香が訊いてくる。
「ほれほれ、おねーさんに話してみ?」
「…………………」
腕組みして、何やら考え込んでいるマルチ。
「うむぅ、とりあえず……」
「とりあえず?」
「ぱんつみえとる」
「………………」
無言で立ちあがる綾香。
「なんか、話がかみ合わないみたいだし、中でゆっくり話しましょうか?」
「あい?」
と、返事も聞かずに、マルチの首根っこを掴み、屋敷の中へと入っていった。
「な、なにするでちかっ! でりけーとなめいどろぼのくびねっこをつかむとは、あんたそれでもくるすがわのにんげんで……ぐふぉあ」
「あーうるさい」
当て身を食らって静かになったマルチを抱えて、綾香は広い屋敷の中を、応接室へと向かって歩いて行った。
「………で?」
「うみ」
「………はい?」
「やまぁ……」
2階にある綾香の部屋で、ベッドにちょこなんと並んで座りつつ、2人はそんなよーなやり取りを繰り広げていた。
「……つまり、どっかに遊びに行きたいの?」
「ぱぱとぉ……」
「なるほど。浩之がめんどくさがって連れてってくれないってわけね。…あいつらしいわ」
「ぷいぷい」
「で、なんでそこで姉さんなわけ?」
マルチの膨らんだほっぺを突っつきながら、綾香が訊く。
「あうあう……、だからぁ、せりかしゃんのくろまじゅちゅでぇ……」
「あーわかったわかった、つまり、自分じゃどーしようもないから、姉さんの黒魔術でなんとかしてもらおうと……って、ずいぶんアバウトねぇ」
「うっさいでち。わかったらとっととせりかしゃんよびもどすなりちゃーたーきをよういしてよーろっぱとやらにむかうなりするでち……って、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「そーんなワガママなコトを言うのは、この口かぁ?」
綾香が口の中に人差し指を突っ込み、うにょーんと引っ張る。
「あうあぁぁぁぁぁぁ、ごめんなさいでちぃ……」
「ま、いいわ。わたしがなんとかしたげる」
マルチの口から、きゅっぽん、と指を抜き、綾香が言う。
「あやかしゃんがぁ?」
「なによそのいかにも信用してませんって目は」
「しんようしてませんってめでちが」
「ちょっと待ってなさい」
「あい」
数分後。
「ほれ」
「なんでちか? これ」
渡された小さな紙の札を見て、マルチが訊く。
「外に出たくなるおまじないのかかった、ありがたーいお札よ」
「そと?」
「そう、それを玄関にでも張っておけば、浩之も外へ出かけずにはいられなくなるわ」
「ほんとでちか! あやかしゃんさんきゅーでち」
そう言うと、マルチは綾香のほっぺたに、むちゅ、っとキスをして、そのまま――
がっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!
窓を突き破って、外へと飛び出して行った。
「ちょ、ちょっとマルチ!」
さすがにこれには面食らったか、綾香が慌てて窓のそばに駆け寄ると――
「めでぃあっ!」
「わうん!」
どこに隠れていたのか、マルチの下僕である野良犬『メディア号』がジャンプし、その背中にマルチがパイルダーオンして、そのまま華麗に着地し、走り去って行った。
「……なんなの、あの子」
「こりでおっけーでち………およ?」
綾香からもらったお札を玄関にはっつけたまさにその時、マルチの身長が1メートルほど伸びた。
「何してんだお前」
正確には、浩之に首根っこ掴まれて持ち上げられていた。
「おまじないでち」
とりあえず、今回は珍しく、やましいことは何もないので、堂々と答えるマルチ。
「読んでみろ」
「さしおさえ」
浩之が指差し、そしてマルチが間髪入れずに読み上げたのは、マルチがたった今玄関のドアに貼りつけた、例のお札に書いてある文字だった。
「意味知ってっか?」
「さっぱり」
さっぱり妖精も裸足で逃げ出すほどの痛快なさっぱりぶりで答えるマルチ。
「これが貼られてるとな、家に入っちゃいけなくなるんだ」
「つまりでかけるしかないと」
「……………………」
今の一言でマルチの考えが読めた浩之は、それでもつとめてやさしい口調でマルチに問い掛ける。
「なあ、マルチ、例えばだ、この札のせいで家にいられないから、海かなんかに出かけたとしよう」
「あい、うみでちか?」
そのやさしさに、なんか裏を感じつつ、マルチが答える。
「そうだ、…で、たっぷり遊んで……、そーすると疲れるよな? 疲れて、夕方になって、……さあどうする?」
「かえりまちゅ」
「どこに?」
「おうちに」
「入っちゃいけないんだぞ?」
差し押さえの札を指差し、浩之が言う。
「………はうあ」
やましいことがありまくりだった。
「……………………」
「………………………………」
しばしの沈黙……。
「だましやがりまちたねあのやろふぎゃっ!」
叫んでる最中に地面に落とされ、潰れたネコみたいな声を出すマルチ。
「どこのあの野郎だ、こんなこと吹きこんだのは……、また志保か?」
びりっと、札をはがしながら毒づく浩之。
「文句言ってやる、ほれ、マルチ、案内しろ。しないと罰ゲーム」
「あうう………」
「ここでち」
マルチが浩之と共にやってきたのは、もちろん来栖川邸。
「ここ? ははぁ、綾香か、なるほど」
「そうでち」
「で、なんでこんなとこにヘリコプターがあるんだ?」
「はて? さっきはこんなもんなかったでちが……、あい?」
「何だ?」
何時の間にか、浩之たちは十数人の屈強な黒服の男たちに取り囲まれていた。
「来栖川のSPか? ってゆーか何で俺たちを包囲してる……うわっ!」
浩之がそんなことを考えてる間に、SPたちは一気に距離を詰め、数秒後には二人とも取り押さえられていた。
「な、なにするでちか! あたちをくるすがわのめーどろぼとしってのろーぜきかっ!」
「基本的にメイドロボに狼藉もクソもないだろーと思うのは、俺の気のせいなんだろうか?」
「ぱぱ! れーせーにつっこんでないで、なんとかするでちっ!」
「いや、無理」
実際、浩之も抵抗してはいたのだが、大勢のSPに取り押さえられてはどーすることもできず、二人はそのままヘリの中へと押し込められた。
「はろー」
そして、そのヘリの中には、来栖川綾香の姿があった。
「……はめられた」
「ほへ?」
「マルチにあれ渡しとけば、俺が文句言いに来るって読んでたわけだ」
「ご名答☆ じゃ、行くわよ」
綾香がそう言ったときには、すでにヘリは離陸していた。
「行くって、どこへだ?」
「決まってるじゃない、海よ」
「わーい、うみでちーっ!」
ばんざいしてよろこんでいるマルチ。
「……そ−ゆーことか、結局、俺はマルチの希望通り、遊びに連れ出されたと」
すべてを理解した浩之を乗せて、ヘリはどんどんと飛んでいった。
「うみでちーっ」
喜びを体全体であらわしつつ、砂浜を走り回るマルチ。
ちなみに、3人ともすでに水着に着替えている。
「転ぶなよー、って、別に砂浜だから転んでも痛くねぇか」
「ぐあぁぁぁぁっ! す、すながっ! すながかんせつにっ!」
「マルチ!?」
いきなり動きがギクシャクしだしたマルチに驚き、浩之が駆け寄る。
「とかそんなこともなく、ひとあんしんでち」
ずしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
砂浜に頭から盛大につっこむ浩之。
「ほえ? どしたでちか? ほら、はやくいくでちよぅ!」
一瞬だけ振り返り、すぐまた走り出すマルチ。
「あ、あのやろ……」
「まあ、いいじゃないの」
「綾香……」
綾香が浩之のそばまでやってきて言う。
「ほら見なさいよ、あの楽しそうな顔」
水辺でばしゃばしゃと遊んでいるマルチを指差す。
「……そうだな、ま、いいか」
それを見て、自然に顔が緩むのを感じつつ、浩之もそう言った。
「で、なんでお前も来たんだ?」
「そんなの、浩之と遊びたかったからに決まってるじゃない」
あっさりと、綾香が言う。
「……まあ、そうはっきり言われると悪い気はしないがな…」
「素直に嬉しいって言えばいいのに」
「はいはい、嬉しすぎて涙が出そうですよ。……よし、じゃあ俺たちも行くか」
「そうね、おもいっきり楽しみましょ」
そう言って、浩之の手を取り、マルチのところへと走って行く。
「おーい、マルチー!」
「あい? ぐふぉあ!」
水辺で遊ぶマルチにドロップキックをかましたりとかしつつ、浩之も久しぶりに時間を忘れて遊ぶことにした。
「たのしかったでちー!」
夕方、満面の笑顔でそう言うマルチを見て――
「ああ、そうだな」
浩之も同じように笑顔で、マルチの頭をぽんぽん、とやさしくたたいていた。
あとがき
「はちかげつぶり?」
いやはやなんとも……
「ふゆなのになつのはなし?」
まったくもって申し訳ないことで……
と、すんげぇ久しぶりの更新ですが、いかがでしたでしょうか?
ホントはもーちょっと海で遊んでるシーンとか書きたかったんですが、なんか長くなっちゃったんで終わらせちゃいました。
「うみぃ……」
話的には夕方まで遊んだことになってるんだからいいだろが。
「まあ、そうでちけど……」
とゆーことで、次回ですが…
「もうしめまちか!?」
次回は芹香さんです、マル。
「そ、それだけでちか!?」
今回よりは早く書き上げたいなぁ、と。
「むりむり」
うっさい。
まあ、好き好きとかこみパとかリーフフェスティバルとかいろいろあるんでちょっときついと思いますが、夏コミまでにあと2,3話書きたいなと。
「まあがんばるでち」
おう。
じゃ、7話でまたお会いしましょう。
「でち」