第二章 「新プリティサミー誕生」
砂沙美も美沙緒も真嶋も小学四号生である。誰がなんと言おうともう絶好調に四号生なのである。
つまり、何が言いたいかというと……そう、遅刻だ!
美沙緒は、まあ、アレがアレしてアレなわけで、砂沙美はその美沙緒を通学路の途中で待っていた、友達想いの優しいコで、真嶋は、……昏倒したままだからとりあえず忘れることにして(笑)。
小学生な砂沙美たちにとって、当面の危機が去った「真嶋操られ……真嶋が美沙緒ちゃんにKOされちゃった事件」よりも、今は「遅刻」のほうが由々しき問題であった。そらもう由々しすぎた。
そんなわけで学校である。どんなわけだか甚だ疑問ではあるが。
とにかく、現在の時刻は八時五十分、すでに一時間目が始まっている時間だ。
「なんか、入りづらいね」
自分の教室の前で、いつのまにか美沙緒と合流していた砂沙美がそんなことを言う。
「そうだね」
なんて事を言っていると……。
がらっ!
「なんか廊下が騒がしいと思ったら・・・貴様らこの鬼ヒゲの授業に遅刻するとはいい度胸じゃねぇか、所属と階級を名乗れ!」
「う、海の星小学校四号生筆頭、河合砂沙美、階級は・・・今はちょっと大佐な気分です!」
「お、同じく、海の星小学校四号生筆頭代理、江戸・・・じゃなかった、天野美沙緒、階級は……中佐っぽいです、ごっついのう」
しーん……。
「あれ?」
砂沙美が発した疑問符は、一体何に対するものだったのか、そんなことにはいっさいお構いなしに、無情にも物語は展開する。
「私立きらめき高校にはひとつの伝説があります。『卒業式の日、校庭のはずれにある古い大きな樹の下で、アストナージから告白して生まれたカップルは永遠に幸せになれる』という伝説が。だから、私のこの想いをあの人に……」とか思ってるνガンダムは伊達じゃない女の子(どんな女や)とはまったく全然これっぽっちも関係ない海の星小学校にせまる魔の手。
……それは、徐々に生徒たちの学校生活を蝕んでいった。
例えば……。
「あ〜っ! あたしのノーマルスーツがなくなってる!」
「あ! あたしのも!」
「だ、誰かが今おしりを触ったの! 後ろに誰もいないのに……」
「ねえ、二階のエアロックの一番奥の個室から、なんか変な声が聞こえるんだけど……低い声でえみりゅんハアハアっていう……え? ちがうよ、花子さんはえみりゅんじゃないりゅん」
「きゃぁ〜っ! のぞきよお〜っ! パプテマス・シロッコみたいな人が更衣室を覗いてる!」
……よりいっそうわけが分からない変態さんな魔の手ではあるが。
とにかく、そんな騒ぎを目の当たりにした砂沙美と美沙緒は、その日の放課後、二人で屋上に来ていた。
「朝、真嶋君を操ってた黒い霞、操られてた真嶋君のへっぽこなやられ様、それに今日の学校中のあの騒ぎ、やっぱりなんか怪しいよ!」
「うん、もしかしたら、また悪いモビルスーツとか……」
「ううん、モビルスーツっていうよりも、ヘビーメタルって感じだと思うな砂沙美は。だってヘビーなんだもん!」
両のこぶしを顔の前でぐぐっと握りしめ、力説する砂沙美。
「なにそれ……」
「う〜ん、よくわかんないけど……」
「あたしもよくわからないけど、でも、なんとかしなきゃ……」
なんとかしようにも、裏シナリオなわけだから、わかっていることが多すぎて何からやればいいか分からず、無意味に時間だけが過ぎていく。これじゃ青春の浪費だ。
「もし、ヘビーメタルなら、……ってゆうか、とりあえず変身しよ、美沙緒ちゃん」
「う〜ん……そうだね、砂沙美ちゃん」
と、美沙緒。
「ルーく〜ん!」
「リョーちゃ〜ん!」
二人が、でかい声でそれぞれのパートナーの名前を呼ぶ。彼らにアイテムを出してもらわないと変身できないからだ。
バサバサバサバサ……。
時間の節約と言うか経費節減と言うか……とにかく、すぐに留魅耶が魎皇鬼をくわえてやってきた。
「はやいねー」
シナリオ通り、って感じで美沙緒が言う。
「うん、魔法ミラーコーティングだからね」
「ルーくん、バトン出して」
「魎ちゃんも出す」
「なんか、途中のプロセスをおもいっきり省略してるような気がするけど……ま、いいか」
ポン! ポン!
二人の前に、おニューな魔法のバトンと魔法のポンポン(確かそーゆう名前だったような気がする、公式設定で。いいかげん自信が無くなってきたが)が出現する。
「いくよ、美沙緒ちゃん!」
「うん!」
二人がバトンとポンポンをかまえて……。
「プリティミューテーション、マジカルリコール!」
「ピクシィミューテーション、マジカルリコール!」
「裏シナリオもサミーにおまかせ! 魔法少女ニュープリティサミー、およびでなくても参上でぇす!」
「キュートでリリカル、スマイルハッピィ……えと、ま、魔法少女ニューピクシィミサ! あなたのハートにメガフュージョン!」
ちょっとはマシになったか。
……とにかく、詳しい演出はやっぱりTVを参照ということにして(やっぱり大手抜き)、二人の魔法少女の誕生である。
「さてと」
ふと、そう言ってサミーは屋上の、とある方向を見て。
ざっ!
と、ファイティングポーズをとる。
「P・F・P・M・P(プリティフラッシュピストンマッハパンチ)!」
ずがぁんと、凄まじい音をたてて、給水タンクがぶっこわれた。
「これでよし、と」
タンクの中にあった水が溢れ出し、水浸しになった屋上で、満足げにサミーが呟いた。
「んでもって、三・二・一……」
「ほうほう、ぷりちーな娘っ子だのう。そっちの子は、なかなかどうして、せくしぃではないか」
さわさわっ!
「にょえぇぇぇぇぇぇぇぇー」
「はわわわっっっっ」
突如、二人の後ろに、巨大な、黒い煙のようなものが出現し、神業のような手付きで二人のお尻をなでまわした!
しかもしゃべってるし!
「な、なんなのよユーは? あたしたちまだ何にもしたような気もするけどしてないのにぃ! ぷんぷんぷん!」
「……なんかすっごく棒読みっぽい悲鳴だったがまあいい」
黒い煙りだか霞だかは、いつの間にか人の形になり、顎髭をなでるようなしぐさをしてみせる。
「わしの名はポルノ大王。この世の性欲とその他諸々の卑猥な感情をつかさどる者ぢゃ」
「「知ってる」」
サミーとミサの声がハモる。
「ちょぉっと違うな。正確に言うと、わしの小指ぢゃ……って、会話が成り立ってないではないか!」
「細かいことは気にしないで。えと……チャ、チャイルドフィンガーですって?」
「………ええと、わしの体はこの通り、形のない気体だからして、君たちの小指ぐらいの大きさ、ということになるだろうが、それを真嶋とか言う少年の体に入り込ませたのだ」
釈然としないながらも、律儀に自分の行った悪事を説明するポルノ大王。
「なんでそんなことを!」
サミーがポルノ大王を睨みつけながら言う。サミーはちょっと怒ってるのだ。
「簡単なことだ。あの少年は天野美沙緒という少女を好きなようなのでな、ちょっと手助けをしてやったのだ」
「手助けも何も、真嶋君、美紗緒ちゃんにボコボコのコテンパンにやられてるじゃない!」
「あの〜、美沙緒に戻れば忘れちゃうんでしょうが、でも、そういうことをバカでっかい声で叫ばれると、やっぱりちょっと恥ずかしいっていうか、長年かかって築きあげてきたわたしの純情可憐で虫も殺せないようなキャラクターってものが……」
「ミサは黙ってて!」
「あう」
一瞬、うるさい黙ってろ的な視線をミサに向け、またポルノ大王に視線を戻すサミー。
「……んで?」
そのポルノ大王(めんどくさいので以下大王で統一)の問い掛けに……。
「だから、真嶋君は、たしかに美沙緒ちゃんが好きだけど、美沙緒ちゃんにKOされたかったわけじゃない! そんなことしたら美沙緒ちゃんが拳を痛めるってわかってるもん! 真嶋君の美沙緒ちゃんへの思いは、恋は、そんなんじゃない! 綺麗な心だから、一途な想いだから、エクストリームの優勝候補になれるんだもん!」
「はあ、よくそんな『TO HEART』やってなきゃわかんないようなセリフ、真顔で言えますなあサミーはん。ふあぁぁぁぁぁ……」
ねっころがって、あくびなんかかましながらミサが言う。
「ミサ!」
「ぐはっ!」
てめえ黙ってねぇと三途の川渡らすぞ的なハートブレイクショットを、ミサのピクシィな左バストにたたき込む。
そして、フトンを構え……。
あ、いや、ミサじゃなくて大王のほうにね。
「ん? なんだ、それは」
大王がサミーを見て言う。明らかに馬鹿にした口調で。
「これ以上、あんなことをするつもりなら……さっきの真嶋君みたいにフトンにダニを増やすつもりなら……」
「つもりなら、なんだ?」
フトンをびしっと、大王に向けて構えるサミー。そう、予告ホームランのように。
「サミーが、真嶋君にかわってお布団干しちゃうから!」
「ほう、この私と戦って勝つつもりでいるのか、お笑いだな」
「な……クリーニングしないとダメですって!」
「……なんか、会話がかみ合ってないような気がするんだが」
「気のせいよ」
布団たたきを持ったままのサミーが即答する。
「そうか。とにかく、まずは自分の無力さを実感してもらおうか。私の腕一本分を……ふむ、あの給水タンクで……ってなにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
大王が見たのは、さっきまで屋上に備え付けられていた、水道用の給水タンク、の残骸。
「な……おい! ちょっとまて!」
大王から分離した体の一部が、大王が止める間もなく、給水タンクの残骸(縦横三センチほど)にすうっと入り込んでいく。
そしてすべてが入り込むと、そのタンクの破片がもごもごと変形を始め、ちんまい手足が生えてきた。
「かわいー!」
黄色い声を上げるサミーとミサ。
「くかかかー」
産声を上げるモンスター。
いままさに、新なる戦いの幕が切って落とされようとしていた。
ガンダムファイト! レディー、ゴーでちゅ。って感じ。