『舞、牛丼好きか?』
そんな久保さんチックな言葉を残し、祐一は舞の前から去っていった。
……もちろんウソだが。
「さゆり……」
それはさておき、とりあえず舞にとって当面の問題は、佐祐理が家族旅行に行ってしまっているということか。
そう、佐祐理はいないわ、祐一は駅前で見かけて声かけようとしたとたんに霧の中にフェードインしてしまうわで、舞はとっても寂しかった。
思わず佐祐理の名を平仮名で呼んでしまうほどに。
ウサギさんは寂しいと死んでしまうのだ。確か。
「……うさうさ」
ウサギさんらしくお月様を見て願ってみたが、それでも佐祐理は来ないわマイクロウェーブも来ないわで、ますます寂しくなるばかり。
やがて――
「……死のう」
寂しさが頂点に達した舞はそう呟き、おもむろに剣の柄に手をかける。
「ハラキリ一番電話は二番」
訳わからん辞世の句を残し、剣を抜こうとしたそのとき――
とんとんとんっ!
「……?」
背中に軽い打穴三点崩しを感じて振り向くと、そこには――
「だめです! そんなことしたらだめですよーっ!」
ぷんすかと怒りながら飛び跳ねている佐祐理がいた。
ただし体はアザラシ。
しかも二等身。
さらに地味に浮いてる。
「佐祐理?」
「はい? いえいえ、さゆりではなくてサユモンですよー。デジモンなんですよー。えっへん」
「さゆり……」
「ふえぇ、サユモンですってばぁ」
だが舞はサユモンの話など聞こえていないのか、泣きそうな顔でサユモンに抱きついた。
「さゆり……」
「ですからー」
「……さびしかった」
「ふえ?」
サユモンは一瞬きょとんとした顔になったが、すぐに優しい笑顔にかわり――
「よしよし、舞は甘えんぼですねー」
そういって、舞の頬を手……はないのでヒレでペチペチと撫でた。
ちなみに撫でたのにペチペチという音がしたのはアザラシだからだ。
「ふん、茶番だな」
「はえ? ……あー、そーいえば、ゲート開きっぱなしでした。あははーっ!」
「まさかこんなところに来ていたとはな」
「どこに来よーとサユモンの勝手ですよ? クゼモンさん」
「久瀬の生首……」
舞の一言が、突然現れたデジモンの容姿を的確に言い表していた。
「佐祐理の後をつけてきた……、ストーキング久瀬……?」
「……ふん、テイマーなんぞただの足手まといにすぎん」
「むか」
舞のボケ(サユモン的に劇萌え)を無視し、あまつさえそんな悪態をついたクゼモンに、サユモンは不快の念をあらわにする。
「そんな人間なんかと一緒にいるより、私と一緒に来い。アキコモン様のところにな」
「抜刀」
「おろ?」
突然舞が剣を抜き、それを見たサユモンがるろうに風に驚く。
「佐祐理は、渡さない」
「何を……」
ちゃき。
「渡さない」
「ま、まて、穏便に……」
こめかみに剣を突きつけられ、冷や汗全開で久瀬が叫ぶ。
「帰れ」
「ごーほーむ」
「く、くそ、後で必ず後悔することになるぞ!」
そんな三下な捨て台詞を残し、クゼモンは追い立てられるようにしてゲートの中に消えていった。
◇
「佐祐理」
クゼモンが消えていったゲートを見ながら、舞がサユモンを呼ぶ。
「サユモンですってば」
「アキコモンって、なに?」
「えっと……、あのゲートの先にある世界にいる、悪者さんです。その悪者さんをこらしめるために、いま祐一さんやアユモンちゃんたちが頑張ってるんですよーっ!」
「祐一が、いるのか?」
『祐一』という単語にぴくっと反応した舞が、サユモンを見る。
「祐一さんに、会いたい?」
「……はちみつくまさん」
「じゃ、一緒に行く?」
「……ものごっつはちみつくまさん」
「あははーっ! じゃあ、祐一さん方面にゲート開かないと。ちょっとまっててねー」
サユモンはそういうと、とととっと前に出て――
「……佐祐理?」
うねうねと奇怪な踊りを踊り出した。
「見よ、東方は紅く萌えているぅ〜」
そんなわけわからん呪文と共に。
そして――
「デジタルゲート、オープン!」
しばらくして、踊りのフィニッシュと共に発せられたその言葉に反応し、サユモンの目の前の空間がパトラクシェミラージュのように光り輝く。
「さあ、れっつごー!」
「ゆういち……」
そして、元気いっぱいのサユモンと、夢遊病者のように祐一の名前を呟く舞は、ゲートの中へと消えていき――
一路、デジタルワールドへ――