ぱんっ!
部屋に乾いた音が響く。
わたしは、一瞬何が起こったのか分からなかった。
そして、一瞬遅れてやってきた左頬の痛み。
ああ、わたしは、祐一さんにぶたれたんだ。
わたしがそれに気付いたとき、すでに祐一さんは部屋から出ていってしまっていた。
わたしと、舞と、祐一さんと、3人で暮らすようになって3ヶ月。
もう3ヶ月。でも、まだ3ヶ月。
新しい生活にひとつずつ慣れていくたびに、わたしの中で少しずつおおきくなっていった気持ち。
決して、抱いてはいけない気持ち。
それは――、独占欲。
3人で暮らすことが夢だった。3人とも、それを望んでいたはずなのに、わたしだけが、すこしずつ変わっていく。
それが、怖くて。
祐一さんや、舞の気持ちを踏みにじっているような気がして。
だから、わたしの『わがまま』で、二人を傷つけてしまわないうちに――
出て……行こうと………。
「祐一さん……」
『なんで……そんなこというんだよ……』
『佐祐理さんがいなくなるってことで、俺はもちろん、舞がどれだけ傷つくかわかってるのか?』
『やきもちやいたっていいんだ、俺だって、佐祐理さんと舞の、俺の入りこむ余地もないような仲の良さに嫉妬したこともあるし、舞なんか、俺と佐祐理さんが楽しそうに話してると、チョップしてくるじゃないか』
「でも、佐祐理は頭の悪い子だから、だから、佐祐理がいないほうが、舞も、祐一さんも……」
祐一さんの言葉を思い出し、そして祐一さんに言った言葉をもう一度口に出す。
そして、その後――
まだ熱を持っている左頬に手を当てる。
『なんでそんなこというんだよ』
そう言ったときの祐一さんの涙。
赤くなった右の手のひら。それを左手でおさえ、なにか言おうとして、でもなにも言わずに――言えずに?――いた祐一さん。
まだ、間に合ったのかもしれない。その時ならば。
でも、もう……
「………理、佐祐理」
「ふえ……、舞……」
気がつくと、舞がわたしの顔を覗きこんでいた。
舞の顔がこんなに近くにあるのにも気付かないほど、わたしは思いつめていたんだろうか。
「佐祐理、すごく悲しそう。……また祐一にいじわるされた?」
「え? ち、違うよ、佐祐理が……」
「………! そのほっぺた……、…………祐一!」
舞が、わたしの赤くなった左頬をみて、そしてリビングの隅に立てかけてあった剣に手を伸ばす。
「違うの……」
舞が、わたしのほうを振り向いたのがわかった。
「佐祐理が、祐一さんを困らせちゃったの。佐祐理が悪いの……。だから、祐一さんは……」
自分で言葉に、その事実に、涙がぽろぽろとこぼれる。
「……なんだ、それなら大丈夫」
「……え?」
でも舞は、ほっとしたように、柔らかい笑みを浮かべた。
「佐祐理が悪いのなら、自分が悪かったって思うのなら、謝ればいい。そうすれば、すぐ許してくれる。祐一は、佐祐理には甘いから」
「舞……」
「それに祐一も、佐祐理を叩いたこと、謝りたいと思ってると思う。今だって、帰ってきづらくて、公園のブランコとかでヘコんでるだけだろうから、だから、迎えに行ってあげて」
「そう……なのかな?」
まだ不安そうにしているわたしを見て、舞が、小さく頷いた。
「……うん、わかった。佐祐理、祐一さんに謝ってくるね」
舞の言ったことは、全て当たっていた。
祐一さんは近所の公園にいたし(しかもブランコに座っていた)、わたしが謝ると、祐一さんも謝った。『叩いたりして、ごめんな』って。
そして、いちばんうれしかったこと。
その後、祐一さんが、『ずっと3人一緒にいような』って言ってくれたこと。
すごくうれしくて、後で舞にも言っちゃいました。『ずっと3人一緒でいようね』って。
舞はきょとんとして、でもすぐ顔を真っ赤にして、小さく、こくん、と頷いてくれました。直後に、当たり前のこと言うな、って、チョップされちゃいましたけど。あははーっ!
ずっと3人一緒。
それは、すごく簡単なようで、すごく難しいことだと思う。
いつか、別れる時が来るかもしれない。
でも、いつか来るかもしれないその時も笑顔でいられるように――
今は、3人一緒に。
できればずっと、3人一緒に。
そして、佐祐理は――祐一さんと舞が二人だけで仲良くしてると、ちょっとプンスカしちゃうような、ワガママな女の子になろうかなと思います。
あとがき
えー、とりあえず三木道山に影響を受けたわけではないです。タイトル決めようとして和英辞典引いた時に似てねーかって気がついたんですけどね。
テーマは『3人一緒』と『ずっと一緒』
佐祐理がメイン。ていうかほぼ独白。なので一人称は『わたし』
序盤の思いつめた口調から、後半のいつもの口調への転換が、やるべきだったのかどうか疑問ですが。『あははー』は余計だったかな?
これを書いたきっかけは、部屋で寝っ転がってて、寝返りをうった拍子に、佐祐理さん(ぬいぐるみ)に肘を入れてしまい、謝り倒したという微笑ましいエピソードからです。
全く関係ないSSになってしまいましたが。
最後の一文が、佐祐理さんが普通の女の子になる(戻る?)ためのほんのちょっとの変化を表す重要なもののはずなんですが、なんだか取ってつけた感がぬぐえませんね。
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