「マルチ爆走」その2(TO HEART SS)
「あ、まって、マルチちゃん・・・」
「わう」
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・」
「犬さぁん、待ってくださぁい・・・」
「わうわう」
ふひい、さすが4本足です。速くて追いつけませんー。
「わうわう」
とててててててて・・・
「うわ、なんだ、犬?」
「きゃあ! なに? 今の」
あっ! 商店街に入ってしまいました。
時間の割りには人通りが多いですが、犬さんはちっちゃいだけあって、ひょいひょいと軽快に走り抜けていきます。
「見失ったら一大事です、あかりさん、ぶーすとおんです!」
「え? え? ちょっと、マルチちゃん・・・」
「いきます! りみったー解除、3、2、1、・・・ばっびゅぅ〜ん!」
しゅたたたたたたたた!
「マ、マルチちゃぁん、まってよぉ・・・」
「もー少しで追いつきますから、あかりさんはそこでお待ちになっててください!」
しゅたたたたたたたたたたたたたたっ!
いー感じで差が詰まってきました!
私の計算によると、あと3.052秒、誤差±5秒ぐらいで犬さんにダイビングキャッチを試みれる距離に到達するはずです!
「ねぇママ、あのメイドロボさん、かたっぽのせんさーがないよ?」
え?
「あらほんと、まあまあ、へぇ、ちゃんと普通の耳もついてるのねぇ」
「あ、片耳のメイドロボ」
「へえ、おれ、センサー外してるとこって始めて見た」
じろじろ・・・。
じろじろ・・・。
「あぁぁ、見ないでくださいぃ・・・」
ひぃん、恥ずかしいでしゅぅ・・・。
「マルチちゃぁ〜ん」
あ、商店街の入り口から、あかりさんの声が聞こえます!
「いくらはずかしいからって、そのスピードで走ってるときに、両手で右の耳を隠したりなんかしたら・・・」
ずだっ!
はれ?
「バランス崩して転ぶんじゃぁ・・・って、遅かったみたい・・・」
はぁぁ! 世界が横転してますぅ。
ぢゃなくて、わたしってば、転んでしまいましたぁ。
あかりさんがわざわざ忠告してくださったのに・・・。
「マルチちゃん、起きれる? ほら、つかまって」
「ず、ずびばぜぇん・・・・・・」
「? マルチちゃん?」
「うう・・・、やっぱりわたしはダメなロボットですぅ・・・ひっく」
「ちょっと転んだだけでしょ? ほら、泣かない泣かない」
「でも・・・」
「それより、ほら、マルチちゃん、わんちゃん・・・」
「わんわん」
とてててててててて。
「は! そうでした!」
ああっ、もうあんな遠くへっ!
「かくなるうえは!」
かぽっ。
「あかりさん! 危険ですからさがってくださいっ!」
「え?」
「ひっさつ、ろけっとぱーんち!」
「とお!」
ひょいっ!
ひゅー。
ごん。
「ぎゃん!」
ぱた。
「やりました長瀬主任! 命中ですっ!」
「えっとね、外した左手首を右手で掴んで投げるのって、ロケットパンチって言わないと思う絶対」
わたしのとなりに呆然と立っているあかりさんが、そんなコトをおっしゃいましたが、あれをロケットパンチだといってわたしにプログラムしてくださった長瀬開発主任のお言葉との間に生じる論理のひずみであるところのとどのつまりは矛盾点は、あとでサンマを焼きながら検討するとして、とりあえず今やらなきゃいけないのは・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「ぷしゅー・・・」
「ま、マルチちゃん、どうしたの!? 耳から湯気が出てるよ!?」
「あ・・・、た、たいしたころないでふ、ちょっとながくかんがえごとしてたんれ、ちえねつが」
「知恵熱? オーバーヒートってこと?」
「そ、そうともいいまふ・・・うーんと、えーと・・・しすてむいじょうなし、しーぴーゆーせいじょうどうさ、めいれいけい、くどうけいちぇっく・・・」
「大丈夫?」
「はい、異常ないみたいです。・・・は! 左腕駆動系に異常が! 左手が動きません!」
「・・・だって、わんちゃんにぶつけたし・・・」
「・・・そうでした。拾いに行かないと」
「わう」
「・・・あ、起きちゃったね」
ぽて。
「あ、わたしのセンサー!」
犬さんが、わたし私のセンサーをおもむろに地面におきました。
「・・・・・わう?」
「あの子、マルチちゃんが投げた左手を見てるよね・・・」
「そうですねぇ、なんかめいっぱい嫌な予感がしますぅ」
「・・・わう!」
ぱく。
とてててててててて。
「ああぁっ! やっぱりぃっ!」
あかりさんとハモりつつ、とりあえず犬さんがセンサーをおかれた場所に駆け寄ります!
「へむ、センサーをセットしつつ、追いかけ続行ですっ!」
「ふう・・・ここに入っていったみたいですぅ」
ざしゅ、っと雑草をかき分けながら、犬さんが入っていったであろう木立のなかを歩いていきます。薄暗くてちょっとこわいですけど。
「ねぇマルチちゃん、ここどこ?」
「え? いやですよぉあかりさんてば、学校の裏山じゃないですか」
「・・・あったっけ? うちの学校に裏山なんて・・・」
「のび太さんの学校にもあるんですから、うちの学校にあっても不思議じゃないですよぉ」
「そうなのかなぁ・・・」
「わん」
「あ! 犬さん!」
犬さんがじっと動かずに、こっちを見ています。
ひょっとして・・・。
「あ、マルチちゃん?」
「だいじょーぶです、たぶん」
ゆっくりと、犬さんに近づいていきます。
一歩、また一歩。
そして・・・。
「ほら、大丈夫☆」
「マルチちゃんてば・・・」
「あのぉ、ぶつけたのはあやまりますから、わたしの左手、返していただけませんか? あれがないといろいろ大変なんですよ、お料理も出来ないし・・・」
「わんちゃんの前にしゃがみこんでおねがいしてるマルチちゃんって、なんかかわいい・・・」
「あ、あかりさん? いったい・・・」
「わん」
「え?」
ああっ! 犬さんが、裏山のもっと奥のほうへ歩いていきます!
なにか、機嫌を損ねてしまわれたのでしょうか?
「わん」
「・・・振り返りながらゆっくり歩いてるってことは、ついてきてほしいんじゃないかな? きっと」
「は、そうですね! いってみましょう、あかりさん!」
「う、うん・・・」
すたすた・・・。
ちょこちょこ・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「わう」
「え? ここですか? ここになにが・・・」
「やっぱりマルチか、このカワイイ手の持ち主は。驚いたぞ、犬っころが人の手首くわえて来るんだもんな」
「え? え?」
「なにうろたえた声だしてんだ、すぐそばにちっこい崖があるだろ、その下覗いてみろ」
崖? ああ、ここですね。
「えと、下を・・・・・・ああっ、浩之さんがすわってますっ!」
「え? 浩之ちゃん!?」
「ん? あかりもいるのか。そういや、昼休みに顔見たっきりだったからな、ひょっとして心配かけちまったか・・・・・ってうおぉぉぉぉっ!」
「浩之ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
どさっ!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん浩之ちゃん!」
ぐりぐり。
ぐしぐし。
わしゃわしゃ。
はわわっ! あかりさんが崖の上から浩之さんめがけてダイブしてしまいました!
ひざのうえにどさっとおっこって、いろんな音を出しながら、浩之さんにしがみついてます!
「浩之ちゃぁん、心配したんだよぉ・・・ひっく、ねぇ、なんでこんなところにいるの?」
「あかり、真上見てみろ」
「え?」
「何が見える?」
「空と・・・・・、木の枝」
木の枝・・・ああ、崖のうえの木からはりだした枝ですね。
「犬っころが、あの枝に登ったっきり、降りられなくなっててな、助けてやろうとしたら、不覚にも足をすべらしちまって・・・」
「歩けないの!?」
「ちょっと足首ひねっちまったらしくてな、正直言ってまだ痛くてあるけないんだ、このまま誰もこなかったらどうしようかと思ってたとこだ。ありがとよ犬、おまえ、最高のレスキュー隊を連れてきたくれたぜ」
「わん!」
「浩之ちゃぁん」
「泣くなって」
浩之さんが、ぽんぽん、とあかりさんの頭を軽くたたいてます。ちょっと、ほほえましいですねぇ。
「おう、マルチも降りてこいよ」
「え? あの・・・」
「いーから、早く。なでなでしてやっから」
「ほんとですか!? じゃあ、遠慮なく、っと・・・」
ぴょん。
「マ、マルチちゃん!?」
「うわあぁっ! だっ、誰がダイブしろと言ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「すびばせぇぇん、ついぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
ごん!
がん!
どしゃ!
エピローグ(というかその日の夜)
「・・・まあ、なんにしろアレだ、三日程度で治るらしいし、コブは」
「うう・・・、かさねがさねすびばせん・・・」
病院で俺の足(と、マルチダイブの衝撃でできたコブ)を診てもらい、しきりに心配するあかりを帰した後、俺とマルチは一緒に家まで帰るわけだが・・・。
マルチのやつ、俺が何言っても、わたしってダメですぅ、みたいな事しか言わないのだ。
「俺の足の捻挫も全治一週間ですんだし」
「うう、わたしって、なんてダメなロボットなんでしょう・・・」
「あかりは自分の家に帰ってったし」
「うう、こんなんじゃメイドロボ失格ですね・・・」
・・・ふう、まったく。
世間話じゃ駄目だ。とにかくマルチを元気づけないと。・・・よし。
「ひさしぶりにマルチの手料理が食いたいし」
「うう、ほんとにわたしってば・・・、・・・え?」
「手料理。・・・ダメか?」
「い、いえ、そういうことなら喜んで! え、えと、なににしましょうか?」
「うーんと・・・、そうだな、サンマが食いたい」
「サ、サンマですか!?」
まともに驚くマルチ。
「どうした? サンマ焼くの、苦手か?」
「い、いえ、そうじゃなくて、矛盾点が検討でロケットパンチに都合がよく・・・」
「はぁ?」
「い、いえ、なんでもないです!」
・・・へんなマルチ。
まあ、いいか。
すっ。
「え?」
不意をついて、マルチの肩に腕をまわす。
「え? え?」
「別に肩組んで歩きたかったわけじゃないぞ、足が痛いから、しかたなく、だ」
「はい、もちろん、わかってますよ」
顔を真っ赤にしながら、マルチが言った。
「わかってますよ、浩之さんがとっても照れ屋さんだってコト☆」
あとがき
実はこの話(その2)は、3時間弱で書き上げたんです。
別に手抜きとかそういうんじゃなくて、僕が2時間以上集中して、小説を書き続けたというのが珍しいんです。それだけ、書いてて楽しかったということで。
マルチたちもちょこちょこと勝手に動いてくれましたし。(特にエピローグなんか、まるっきり構想にはなかった)
ただ、マルチの一人称という、特殊な書き方をしていたために、気がつくとセリフばっかしになってたりするのがちょっとやっかいでした。
ていうか、僕が一人称を書くと、大抵セリフばっかりになる(笑・・・えないって)
しかし、アレですね、全くのパラレルワールドになっちゃいました(ゲームの後日談ですらない)。だって、マルチが高校に行っている時期に、「ひさしぶりにマルチの手料理が食いたい」ときたもんだ(笑)。
いつの話だ? これ。
まあそれはさておき・・・。
結論:やっぱり一人称は難しい。
ということで(笑)、執筆予定にある次のマルチのSSは、三人称になる可能性大です。
ご意見、ご感想、アドバイス、苦情など、メールいただけるとうれしいです。(苦情はあんまりうれしくないか(笑))
掲示板でもOKです。
では、これにて。